辰濃和男著『文章のみがき方』 ― 2017/12/23 07:11
『文章のみがき方』 <等々力短信 第982号 2007.12.25.>
「毎日、書く」という心がけから、その本は始まっている。 「毎日の素振 りをせず、いくら野球の解説書を読んでも、野球がうまくなるはずはありませ ん」 辰濃和男さんの岩波新書『文章のみがき方』である。 毎日、ブログを 書いている私は、いい気持になって読み始めた。 鶴見俊輔、井上靖、加藤周 一、山本周五郎、井伏鱒二、中野重治、井上ひさし、江國滋、山口瞳、向田邦 子などなど、私が読んできた人たちの文章が引用されている。 辰濃さんと好 みが似ているのかと、これもうれしくなった。
しかし、「推敲する」の章の「書き直す」に至って、ギャフンとなった。 辰 濃さんが推敲で心を配っている点を箇条書きしている(128頁)。 23項目も ある。 どれもが具体的で参考になる。 拡大コピーをして、机の前に貼って おきたいほどだ。 毎日、ただ書いているだけで、これほどの配慮はしていな い。 「(5)とくに書き出しの文章がもたもたしていないか」を、先月の短信 を書いている頃に読んだ。 さっそく「文豪・夏目漱石」展を見に行った話の 書き出しを、「両国は久しぶりだった」にした。
敗戦後、坂口安吾を読み、ひろびろとした世界が目の前に開け、さらに『福 翁自伝』を読んで、明治の頃、すでにこんな自由な文体があったのかと、驚い たそうだ。
辰濃さんは、文章修業には、筆の技をみがくことも大切だが、五感の練磨こ そが文章力を高めるための、より根本的な過程だという。 大自然のなかでこ そ五感は鋭敏になる、と。 四国「歩き遍路」の体験で、確信を深められたこ となのだろう。 俳句の吟行で、自然の中にほっぽり出されることを思い出す。 風を感じ、空や雲を見、木や草花、鳥や虫などの季題に向き合う。 非日常の 空間と時間の中で、たった一人になって、自分の心と対話し、言葉を紡ぐ。 あ の時間は、なかなか貴重なのだった。
「落語に学ぶ」というのも、わが意を得たり。 水川隆夫さんの『漱石と落 語』(平凡社ライブラリー)から、落語が漱石の文学、二葉亭四迷や山田美妙の 言文一致体、正岡子規らがはじめた写生文に大きな影響を与え、ひいては多く の日本人の見方、考え方、感じ方、文章の書き方に影響を及ぼしたという説を 紹介している。
福沢、俳句、落語と、我田引水が続いたので、辰濃さんが、落語から学ぶべ きことの(3)に挙げたことを、引用せねばなるまい。 「えらそうなことや 自慢話を書いたとき、ナンチャッテと省みる余裕がでてくる」
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