桂小南の「菜刀息子」前半2018/01/04 08:37

 桂小南治改メ桂小南、紙切りの林家正楽の息子だそうだ。 小柄、頭の真ん 中前方に少し毛がある、黒紋付の羽織に袴。 「菜刀息子」はナガタナムスコ、 菜刀包丁(ナガタナホウチョウ)は先の丸い菜っ切り包丁、ナガタン包丁とも 言う。 婆さん、倅の俊造には、包み紙を切る裁ち包丁を誂えて来いって、言 ったんだ。 こんな菜刀包丁、店で使えるか。 口上に間違いがなかったって …、包丁屋が悪いのか。 へぇい。 なおさら、勘弁できない、間違っていま すと言って、作り直して来い。 お父っつあん、この子は心根が優しいから、 断われない。 心根が優しいって、いったい幾つになったんだ。 ヒェッ、ヒ ェッ。 世間を見てみろ、よその倅は立派にやってる。 この子は、煙草も喫 わないし、月一円の小遣いも余らせます。 甲斐性がないんだ、俺なんか、親 父に言い返したもんだ。 出てけ、出てけ! 謝って、ほら、二階へ行きなさ い。 もう、飯はいい、お茶をもらおうか。

 ちょいと、俊造、下に降りて、ご飯を食べなさい。 開けるよ。 俊造! 俊 造! 俊造! どうした? 俊造がいませんよ。 親類の家でも行ったんだろ う、とんだ恥さらしだ。

 日が暮れて来ましたよ。 夜が更けてきましたよ。 これはちょいと、おか しいな、熊五郎の所へ使いを出そう。 この夜更けに亀どんが来ましたが、実 にどうも、ハッハッハ! 何かご用で? 実はうちの倅が…。 オッ、オッ、 ヘェ。 行きそうな所を書いておいたから、すまないが様子を見て来てもらい たい。

 アーーッ、寒い。 トントントン、今晩は! 今、開けます。 どうしたん です、こんな時分に。 いーえ、家には来ませんでしたよ。 トントントン、 今晩は! そうかい、家には来なかったよ、すまないね、寝たままで。 トン トントン、今晩は! ハッハッハ、あの親父ならな、そうかいそうかい、来な かったよ。 トントン。 来ませんでしたよ。 トントン。 来なかったよ、 俺ん所に来るわけねえだろう。

 どこにも、いませんでした。 奥で一本つけさせてある。 もう晩いですか ら。 じゃあ、持たしてやんな、お休み。 婆さん、閉めなさいよ、早く。 ど こへ行ったんでしょうね。 心配なんか、することはない。

 カァー、カァー、カァー。 豆腐ーーッ、生揚げ、がんもどーーき! お父 っつあん、夜が明けましたよ。 そろそろ、飯にするか。 火の用心! 火の 用心! うどーーん、鍋焼きうどん、うどーーん! とうとう、一日、帰って 来ませんでした。 いいんだよ、若い時分の苦労は、買ってでもしろっていう からな、身の為だ。

 コーン、コーン。 砂ーーッ、磨き砂ーーッ! たいそう、温ったかくなり ましたね。 そろそろ、春だね。 (三味線が鳴って)タケノコーーッ、フキ ッ! 菖蒲ーッ、独活(うど)ーッ! 朝顔の苗、夕顔の苗! 玉子、玉子、 玉子!

 カァー、カァー。 冷やっこい、冷やっこい、冷やし水! エーッ、定斎、 定斎屋でござい! 市岡新田の西瓜、種まで赤いよ! メダカ、金魚ーッ、金 魚ーッ!

 カァー、カァー。 屑ーーイッ、屑屋、お払い! エーッ、蜜柑どうです、 甘い蜜柑! 栗屋ーッ、焼き栗、丹波の焼き栗!

 カァー、カァー。 お宝、お宝、お宝、一富士二鷹三茄子! 蕎麦ーーッ、 蕎麦ーーッ、蕎麦ーーッ! 払いましょう、厄払い! 火の用心! 火の用心!  パタパタパタ、うどーーん、鍋焼きうどん、うどーーん!