春風亭一之輔「尻餅」の本篇2018/01/07 08:15

 大晦日ってのに、お餅どーすんのよ、お餅を搗いてないのはウチだけだよ。  餅なんか食わなくても死なないよ、餅食って死んだ爺さん婆さんは、いっぱい いる。 長屋35軒、2切れずつ貰ってこい、かなりの数になる。 そんなこと はできないよ。 表から餅屋になって入ってくるから、うまく返事をしてくれ。  町内を一回りしてくる、餅を搗く真似をするんだ。 羽織るもの、何かないか。  おせんべの袋がある。 そんなものは着られない、お前の半纏を寄越せ。 俺 は表に出るんだ、貸せ。

 親方と、若い衆二人の餅搗き屋だ。 おい、辰公、金太、次は大工の八五郎 さんのお宅だ。 よいしょ、どっこいしょ、こんばんは! 遅くなりまして、 すみません。 返事をしろ、早く。 はーーい、どちらさま? 俺だよ、じゃ なくて、餅屋でございます。 (大声で)こんばんは! こんばんは! おい、 お光、お供えの大きさは? 三寸、五寸、二つずつ、のし餅を二枚。 おい、 お光、餅屋さんに祝儀を。 ないよ、ないものはない。 馬鹿か、鼻紙でいい。  やだ、やだ、貧乏は…、何でこんなものと一緒になったんだろう、仲人に一杯 食わされた。 (洟かんで)はい。 かんだのを、出すな。 ご祝儀を沢山に 有難うございます。 そんなことを言われると、照れるな、酒を振る舞ってや ってくれ。 うまそうな酒だ。 無色無臭透明だ。 銘柄は? 上善水の如し。

 どんぶり鉢にお湯を。 いらないでしょ。 ある物は、本物を揃えたい。 男 のロマンだ。 おっかあ、臼持って来い。 ないよ。 あるだろ、お前えの臼、 ケツを出せ、わかりそうなもんだろ。 これ即ち、尻餅だ。 やだよ。 音が しなかったら、餅屋とあそこの夫婦は怪しいと思われる。 本気なのかい。 本 気だ、俺の目を見ろ。 やるよ、やりゃあいいんだろう。 頭、前へ下げろ、 臼が風呂敷にくるんだまんまだ。 ケツまくれ。 寒ぶいよ。 搗いてる内に、 温ったかくなるよ。 お前、男らしいな、ハラくくったな。 ここに、ホクロ がある、一緒になって初めて見た。

 辰公、いくぞ。 あいよ。 よいしょ、よいしょ。 こねまわさないで、お くれよ、くすぐったいよ。 ホラセ、ホラヨ、ホラセ、ホラヨ。 どこへ行く んだ。 痛いよ。 逃げ出すな。

 ホラセ、ホラヨ、ポンポン、ヨッ、ポンポンポン、楽しいな。 ホラセ、ヨ ッ、ヨイヨイヨイ。 ひと臼、搗き上がるぞ。 お尻が割れるよ。 はなから 割れてるだろう。 もうひと臼やるぞ。 次の蒸籠を持って来い。 片っぺら が真っ赤だ、向きを変えろ。 少し冷ます。 寒いよ、「うす」ら寒い。 次の がある。 ホラセ、チョイナ、ドッコイ、ポンポン、ヨッ、ヨイヨイ。 水だ。  冷たい。 下腹に力を入れろ。 ヨイヨイヨイ。 プッ! お前、やりやがっ たな。 草餅になっちゃう。 ひっかいちゃあ、いやだよ。

 もう、ひと臼搗きましょう。 あとひと臼は、おこわにして下さい。