柳亭市馬の「御慶」前半2018/01/08 06:42

 <石町(こくちょう)の時の鐘より椙森(すぎのもり)> 椙森神社に富籤 があった。 富は一分、四分の一両で、千両が当たる。 千両は分限(ぶげん) と言われていた。 江戸の三富は、谷中の感応寺、目黒の不動、湯島の天神、 天保の改革で廃止になった。 夢中になると、ほかのことは目に入らない。 暮 の二十八日、金がない、餅を搗く音だけでも出している家がある、米はもちろ ん、味噌や醤油も切れてる、切れないのは菜っ切り包丁だけ。 離縁してもら いたい、大家さんのところへ行って、離縁状を書いてもらおうか。 半纏を脱 げ、質屋で一分にする。 いやだ、おっかさんの形見だよ。 脱ぎなよ。 む りやり脱がせて、質屋を拝み倒して一分にし、湯島の天神様の札場(ふだば) へ。 番号に望みがある、いい夢を見たんだ。 梯子のてっぺんに鶴がとまっ た、鶴の千ハシゴ、1845番だ。 くれ、くれ! 鶴の1845番、今しがた、買 って帰った人がいる。 同じ番号をもう一枚、こしらえてくれ。 そいつと、 千両を半分ずつにするから。 無理です、両袖の番号ならあるけれど。 鶴の 1845番じゃなきゃ、駄目だ。 かかあが、さっさと半纏脱げばいいんだ、質屋 の番頭も、なかなか一分出さなかった。

 アーーア、みすみす千両取り損ねた。 大川に身を投げたら、風邪を引くし な。 易者か。 夢判断が得意だ。 富の夢を見て、鶴の1845番を買いに行 ったが、もうなかった。 地道に働いた方がいい、請け合うよ。 千両なんと かしてくれ。 梯子のてっぺんに鶴がとまった、鶴の千ハシゴ、1845番の夢を 見て、買いに行ったんだ。 素人の考えそうなことだ、梯子をご存知か、上が るのに入用だろう。 上がったり、下りたりする。 二階にいて、梯子がなけ れば、どうする。 飛び降りる。 下にいた時は、どうする。 飛び上がれな いだろう、梯子は下から上に昇るためにある、548番を買うんだ、何とかなる。  鶴の1548番だな、お前さん本職になった方がいい。 わしは本職だ。

 札をもらおうか、鶴の1548番はあるか。 調べます。 オッ、ありました、 残ってます。 一分出す。 こりゃ千両だ。

 そろそろ突き出す時刻だ。 境内は、ごった返している。 寺社奉行立ち合 い、三尺七寸五分の錐(きり)で小坊主が突き、稚児が読み上げる。 「本日 の突き止めーーッ」 藁灰に水を打ったように、シーーンとなる。 「鶴の1548 番!」 アタッタッターーーッ! 大富の千両、当った奴がいる。 腰が抜け ちゃって、立てない。 御神輿みたいに、運んでってやれ。 千両、くれ、く れ! 番号札を。 これ。 おめでとうございます。 水を一杯どうぞ。 水 は要らない、金をくれ。 あなたは気丈夫だ。 この場だと二割引かれて、八 百両になる。 二月まで待てば、千両になる。 今、欲しい。 いいよ、八百 両でいい。 お三方に切餅、一分金百枚入り、一包み二十五両、4×8=32包み。  懐へ、腹掛けのどんぶりにも、背中にも。 十分に気を付けて。 女みたいに、 なっちゃった。

 おっかあ、今帰ったよ。 すったんだろ、また。 離縁するから、去り状を。  お前に見せるものがある。 切餅二つ、五十両出たぞ。 ちょいと、夢じゃな んかい、当ったの? 八百両。 お前さんに言ったんだよ、富はいいって。 欲 しい物があったら、何でも言え。 いい着物、一枚。 十二単に、緋の袴なん かどうだ。 上におっ母さんの半纏。 サンゴ玉も欲しい。 一尺玉でもいい。  首がもげちゃうよ、お前さんも晴れ着があったらいいね。 旦那みたいな、つ っぱらかったやつ。 裃(かみしも)だろ、お前さん、きっと似合うよ。 い いカッコで、年始ができるか、さっそく誂えてくれ。 市ヶ谷の甘酒屋、古着 屋で何でもある。 その前に、大家さんの店賃。 大家、喜ぶぞ。 一つ忘れ てた、易者の先生に見料を払ってない、二つもありゃあ足りるな。

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