柳亭市馬の「御慶」後半2018/01/09 07:17

 まっぴら、ごめんねえー。 何だ、八公か。 店賃を一つでもいいから払っ てくれ。 いくつ溜まってんだ? 九つ。 たった。 どうだい、こっから取 ってもらおう。 なんだ、切餅なんか出しやがって、悪い了見でも起こしたか。  当たったんだ。 中った、何か拾って食ったのか。 富で、八百両。 エッ、 本当か。 水、飲むか。 店賃、ここから取ってくんな。 すまねえな。 あ とは、仕舞いな。 お焼香じゃないんだから、しみったれたことすんな。 お 婆さん、正月の小遣いにしな。 のどゴロゴロ鳴らしてやら、猫婆あ。 これ から裃、紋付、袴を買いに行くんだ。 帰りに寄んなよ。

 裃、紋付袴が揃った。 雪駄も買って来たよ。 着てみたいよ。 お前さん、 つっぱらかっちゃって、惚れ直すね。 正月に着直すのは、面倒だな、この格 好でいるよ。 まだ28日だよ、あと四つ寝ないと。

 大晦日、酒屋が薦被り、餅屋は餅を運んで来る。 いい正月だ。 まだ、除 夜の鐘がならないよ。

 一番鶏が、コケコッコー! 正月だ、正月だ、正月だ、お天道さま、今年も よろしく。 まず大家んところだな。 どーも、おめでとうござんす。 立派 になったな。 弥蔵を組むんじゃない、突き袖をしろ。 右手を御太刀の上に 乗せるんだが、御太刀がないか、この白扇を帯の前に差せ、右の袂(たもと) を乗せる、そして少し反る。 おめでとうござんす。 挨拶も、それなりにし なくっちゃいけない。 旧冬中は、いろいろお世話になりました。 むずかし いな。 短くて、めでたくて、気の利いたのを教えてやろう。 「御慶」。 銭 湯で隣同士の御慶かな、長松が親の名で来る御慶かな、というな。 上がって けって言われたら、また春永にゆっくりお伺いいたしますと、「永日」と言って、 帰って来ればいい。 合言葉だな、やってみよう。 ギョケイ!! あとを…。  あっそう、おうおう。 エイーーージツ!! と、くらあ!!

 どこへ行こう、寅んべの所だ。 寅公、寅んべ! 寅さんなら、今朝早く出 かけましたよ。 あら、どこの旦那かと思ったら、八っつあんじゃないか。 隣 のおばさんで。 明けましておめでとう。 御慶! お屠蘇どう、お上がんな さいな。 永日!! べらぼうめ。 おばさん、目を白黒させてらあ。

 半公が来た。 半公、ちょいとやってくんねえ。 八公、おめでとう。 御 慶! 次をやってくれ、お上がんなさいって。 往来だよ、ここ。 永日って んだ、この泥棒野郎!

 繭玉かついで、留公たち三人が来た。 ここだ、ここだ、江戸で一番めでた い野郎だ。 新年のお日さん、おめでとう、おめでとう、おめでとう。 御慶!  御慶! 御慶! どっから声出してんだよ。 ギョケイ!! 何を言ったん だ? 御慶!(どこへ)って、言ったんだ。 三人で恵方参りに行ったんだ。