柳家権太楼「薮入り」前半2018/02/03 07:19

 お茶、気取って出しているんじゃなくて、咳込むといけないんで、保険。 飲 めるような芸じゃない。 間を持った噺家さんは、落語の中の仕草で飲める。  円生師匠のような、(声色で)番頭さん、そこにお座りなさい(お茶を飲む)。  私のように、(突然、大声で)セ・イ・ネ・ン・ガッピ! じゃダメ。

 <薮入りやなんにも言わず泣き笑い> 齢を取ると、皆様と同じぐらいです が…、三代目金馬師匠の「薮入り」を聴いた。 やろうと思った意味合いや、 世の中の背景が、出てこれない。 先日「へっつい幽霊」をやったら、「へっつ い」がわからない、それで噺の中に入っていけなかったという客がいた。 初 めに説明をしても、あの噺は、とんでもねえ方へ行く。

 徒弟制度で、小僧、丁稚がいた。 こないだまで、ワン・ジェネレーション 上では、金の卵の集団就職、川口の『キューポラのある町』、蒲田、大森、『三 丁目の夕日』、同じような背景があった。 七つから九つぐらい、今の小二、小 三、娘は子守りに、口べらしということで入っていく。 みんな貧乏だった。  金持はほんの一握り。 町屋(ちょうや)だと、豆腐屋なんぞに。 タダ働き、 労働基準法や児童福祉法なんてものはない。 給金無し、御駄賃をもらう。 お 客さんから、すまないね、二番番頭さんを呼んでおくれ、って一銭か、二銭も らう。 自分のものにしない、それを番頭さんに報告して、小僧衆集まってお 饅頭でも食べようか、となる。 働きで、鼠を捕る。 縁の下、台所の踏み板 の下に、米びつから米がこぼれる。 鼠が増える。 どぶ浚いも、町内でやっ ていた。 お上から、ペスト菌の対策で、鼠を捕ると、宝くじのように賞金が 出る。 手代が、ソロバンや読み書きを教える、戦力にするために。 二、三 年、お休みはない。 お使いは、家のそばへは行かせない。(羽織を脱ぐ)

 あそこならと、親の方が踏ん切りをつけて、奉公へ出す。 吉兵衛さんの世 話で、奉公することになった。 亀、逃げて帰ってきても、家に入れないから な。 冬、手を洗ったら、よく拭け。 夏は、首ったまに、手拭いを巻け、汗 もができるからな。 おっかあ、泣くな。 俺か、目に汗をかいてるだけだ。

 子供の方は、忙しさにかまけて、日々に疎しとなるけれど、親の方は、なか なか子離れが出来ない。 おっかあ、亀はよく三年辛抱したな、さすが俺の子 だ。 我慢強ええのは、俺に似た。 お前さん、いいことはみんな自分に似た というんだから。 今、何時だ? 三時半。 昨日の今頃は、もう夜が明けて たよ。 お前は奉公したことがないから、わからないんだ、あいつも眠れない だろう。 寝なさい。 子供のために、お通夜しようよ。 けえって来たら、 あったかい飯だよ。 お前は知らないんだよ、賄いだ、あいつ納豆好きだった な、鰻もいいな、天ぷら、芋の…、刺身、中トロなんか、おでん、こんにゃく、 おしるこ、お餅を入れて、中華料理もいい、チャアシュウ・ワンタンメン、西 洋料理もいい、ビフテキ食わしたいな。 いつ、食わせるんだい、明日一日だ よ。

 赤坂のお染さんの所へ連れていこう、あそこの婆さん喜ぶぞ、品川のおばさ んとこも、海を見せたい。 川崎、横浜、野毛、海といやあ、江の島、鎌倉、 久能山、名古屋、大阪、船で金毘羅さん、九州の別府も。 いつ行くんだ、明 日一日だよ。

 今、何時だい。 四時半。 ありがてえ。 何で、起きるんだい。 竹箒は どこだ、表を掃く。

 吉っつあん、熊さんが、表を掃いてる。 今日は、亀ちゃんが帰ってくる日 だ。 乱暴者でも、子を思うんだ。 声かけてやろう。 熊さん、いい天気で すね。 私のせいじゃ、ありません。 亀ちゃん、大きくなったろうね。 小 さくなったら、なくなっちまう。 ウチにも寄るように、言っておくれ。 当 人が、何と言うか。

 遅いな。 あのクソ番頭がいじわるなんだ、出がけに用事を言いつけたりす るんだ。 あと三十分遅くなったら、行ってぶっ飛ばしてやるか。 あの子は、 一番下なんだから、遅くなるんだよ。 お前さん、亀が来たよ。 ちょいと、 どこへ行くんだ、ここにいろよ。