「新政府綱領八策」と『西洋事情』初編2018/02/08 07:09

 平山洋さんは『「福沢諭吉」とは誰か』で、「船中八策」は偽文書であるとの 考証を紹介した後、「新政府綱領八策」は『西洋事情』の抜粋だと論を進める。  平山さんは、「新政府綱領八策」という文書を、前藩主山内容堂に差し出された 「上書」だと考える。 後年作られた印象とは異なり、現実の龍馬は土佐藩の 一員として行動していた。 下士である龍馬は前藩主という高い地位の人物と 面会するのは難しく、意見の具申は書類を差し出すことでしかできなかった。  この「新政府綱領八策」も、上司である後藤象二郎を通じて容堂の元に届けら れたものだと考えるのだ。

慶應3年11月上旬、徳川慶喜は大政奉還すると申し出ただけで、未だ征夷 大将軍職を免じられてはおらず、依然として超大物のままだった。 政治空白 を避けるために、幕府後の体制を審議する諸侯会議が準備されていて、容堂も 出席する予定になっていた。 土佐藩としての意見を求められた時の用意のた めに、部下に意見をまとめさせたのが、「新政府綱領八策」という見立てである。

容堂が諸侯会議の席上でアンチョコのように用いることを予想しての文書だ とするならば、やや奇異に感じられるのは、項目によってはそっけなさ過ぎる 項目があることだ。 (2月6日の当ブログ参照。) 八策のうち、一・二・四 義は一般的な意見にすぎない。 人材を登用し、きちんとした法令を作れ、と いうのは、過去の諸藩で藩政改革を求める上書にしばしば見られるものだ。 問 題は、簡潔すぎるとも見える残りの五項目で、平山洋さんは、「新政府綱領八策」 が提出されるに際して、別に参考資料が供されていたと考え、それを福沢諭吉 の『西洋事情』初編だと推測するのだ。

そう考える最大の論拠は、第八義「皇国今日ノ金銀物価ヲ外国ト平均ス」と そっくりな「貨幣を造て其位を調理し外国の貨幣と平均すること」という表現 が、『西洋事情』初編二に米国議会の機能の説明としてあることだ。 第三義「外 国ノ交際ヲ議ス」は『西洋事情』初編一に外交についての明快な説明、第五義 「上下議政所」は上の米国議会についての詳しい説明があり、第六義「海陸軍 局」、第七義「親兵」についても同様だ。 『西洋事情』さえ座右にあれば、そ れを辞書のように用いることで、「新政府綱領八策」の内実を捉え損ねる心配は なさそうだ、というのである。