五街道雲助の「干物箱」前半2018/03/07 06:39

 五街道雲助、ドン、ドンと始まる太鼓が印象的な出囃子「箱根八里」で、例 の奴凧のような恰好で出て来た。 今はお遊び場所が沢山あるが、昔は女郎買 いに決まっていた。 吉原は、女が手ぐすね引いて待っている。 誰でも褒め てくれる。 色白、背が高い。 まったく褒めようがなくても、顔を見て、ち ょっと驚く。 あらまあ…、こちら、まあ容子がいい。 どこがとは、言わな い。 あの女は、本物(ほんもん)だ。 あの女は本物だ、と思っている内に、 懐に一文も無くなる。

 吉原に夜泊り、日泊りで、親父に二階に放り込まれた幸太郎、元気がない。  婆さんに輪を掛けて強情だからな。 幸太郎、たまには下に降りてきたらどう だ、お父っつあんと話をしないか。 湯屋へ行って、さっぱりして寝たらどう だ、ただお前は「角兵衛獅子の食もたれ、返(帰)えりゃあしない」から、三 十分で戻らなければ、今度こそ勘当だ。 行って来ます、さよなら。 表はい いね、半月ぶりだ、脳が洗われるようで、親父も湯へ行けなんて、俺に気ィ遣 ってやがら、親孝行してやろうか、肩でも揉むか。 今夜は早く帰る、三十分 以内で帰れば、親父は喜ぶとは思うんだけど、これが駄目、外心がつく。 吉 原はいいね、花魁はいい匂いがする。 ねぇ、若旦那、なんてね。 三十分は きついね。 源公の人力でも三十分じゃあ、行って帰ってくるだけで一杯一杯 だ。 若旦那、浮かない顔ですね。 なんだ、竹やんかい、人相見るのか。 蟄 居閉門の身、湯屋へ行く三十分しかない。 お気の毒で、前に二円でご伝授し た「カゴ抜けの法」はどうでした? 塩ザルに蒲団をかけて、抜けだしたら、 近所でボヤ騒ぎ、帳場格子にいた親父が起しに来てね。 机の上に塩ザルを置 いて、この方にお礼を言えと、頭を下げさせられた。 しからば、「身代わりの 術」を伝授料・五円で。 貸本屋の善さん、若旦那の声色が上手い、向島の植 半で、若旦那の声色をやったら、隣の部屋に大旦那がいて、間違えた。 あれ が役に立とうとは思わなかった。

 奥から二軒目、きたねえ家だな。 いるかい、善公。 善さんは、お留守で すよ。 いるんじゃないか。 大家さんでしょう、店賃は月末にはお持ちしま す。 米屋さん、魚屋さん、八百屋さん、薪屋さん、蕎麦屋さん…。 方々に 借りがあるんだな、善公、俺だ、俺だ。 善公って、呼べるのは、大家と若旦 那ぐらい。 若旦那ですか、しまりがしてある、戸の左の上を押して、右下を 引き、ちょいと持ち上げるようにして、下を蹴っ飛ばし、ガラッと開ける。 開 いた、箱根のからくり箱みたいな戸だな。

 どうしても会いたくなっちゃって、吉原の花魁だ。 行きましょう。 行く のは俺、お前は行かない。 頼みがある。 貸本屋をやっていられるのは、若 旦那のおかげ、若旦那の為なら、命もいらない。 向島で私の声色をやったら、 隣の部屋に親父がいて、間違えたそうだな、大層なものだ。 身代わりで家の 二階にいてもらいたい。 いやだ、駄目だ、もし見つかったら、大旦那は柔術 をつかう、胸倉つかまれて、池へドボンと放り込まれる。 この時季だ、風邪 を引く、命はいらないけれど、風邪は引きたくない。

 縞の羽織に、三円つける。 やりましょう。 顕われや、しないでしようね。  そうそう、親父の代わりに、運座へ行った話を聞くかもしれない。 「抜きは 出たか」と聞いたら、「出ました」と、巻頭の句は「親の恩、夜降る雪に音もせ ず」、巻軸は「大原女や、今朝新玉の裾長し」。 書いて下さい、四角い字は駄 目、仮名で。 嫌な貸本屋だな。 俺の女だって洒落はわかる、善さんのご商 売は? って聞くから、上野の山のモク拾い、コレラ病棟の係員…。 やめた、 やめた。 羽織に、五円つけるよ。 やりましょう。

コメント

コメントをどうぞ

※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。

※なお、送られたコメントはブログの管理者が確認するまで公開されません。

※投稿には管理者が設定した質問に答える必要があります。

名前:
メールアドレス:
URL:
次の質問に答えてください:
「等々力」を漢字一字で書いて下さい?

コメント:

トラックバック