五街道雲助の「干物箱」後半2018/03/08 07:08

 只今、帰りました。 何だ、二階に帰ってきているのか、まだ二十分と経っ ていない、感心、感心、これならいつでも外に出してやるよ。 お父っつあん、 お休みなさい。 お父っつあん、うまいでしょ。 何がうまい。 お休みなさ い。 立派な部屋だね、若旦那、いい蒲団に寝ているな、絹布の二枚重ねだ。  本がある、何読んでいるんだろう、『学問のすゝめ』、難しい本読んでいるね。  薬缶が錫、取っ手に瑪瑙がはまっている。 おや、燗がついている、しっかり 支度してあるんだ。 上燗、上燗、毎晩こんなことしてもらっていて、それで も女に会いたい。 女の力は、大したもんだ。 源公の車は早い、若旦那、今 頃どの辺まで行ったかな、アラヨ、ラララララ、ルルルルル、源公は速いから な、ウォー、あばよって、前の車を抜く、ラララララ。

 (下から)何を騒いでいるんだ。 アーーン。 いけねえ、雪隠詰めになっ ちゃう。 お前に聞きたいことがある。 こないだ運座に行ってくれたよな、抜 きは出たか。 はい、おいでなさい。 出ました、巻頭の句は「おやのおん、 よるふるゆきにおともせず」。 巻軸は? 「おはらめや、けさあらたまのすそ ながし」。 宗匠、うまくまとめたな、もう一つ、聞きたいことがある。 運座 の前に、無尽が行ってくれたんだろ。 ようで、ございますが。 えっ、どこ に落ちた。 神社のイチョウの木に落ちました。 えーっ、何だって。 あれ はワワワさんに落ちました。 山田さんかい。 誰が何と言っても、山田さん。

 もう一つ、若宮町のおばさん、お土産に干物を持って来てくれたようだった が、何の干物だった? 魚の干物。 大きかったようだったが…。 ええ、鯨 の干物。 鯨の干物ってのがあるか、ムロアジか何かじゃなかったのか。 そ うです、ムロアジ。 どこにしまった。 もう寝かせて下さい、助けると思っ て、お父っつあん、お休みなさい。 どこだって。 大丈夫な所。 箱か? 下 駄箱。 干物を下駄箱に入れる奴があるか。 干物箱。 干物箱って、どんな 箱だ。 魚の形をした、鯛焼きのお化けみたいな。 鼠入らずだろう、ガタガ タ音がする、鼠に引かれるといけない、茶箪笥にしまうから、こっちへ持って 来ておくれ。

 ウーン、おナカが痛いんです。 具合が悪いのか、しようがねえ奴だ、薬を 持ってってやる。 アッ、アッ、上がって来るよ、桑原、桑原、桑原。 お前、 何で蒲団をかぶっているんだ、きたねえ足だな、頭隠して、尻隠さず、ケツっ ぺたにヒヨットコの彫り物、いつ入れたんだ。 何で、中で蒲団を押えている んだ、お父っつあんと力くらべか、エイヤッ! お前は、幸太郎じゃないな、 貸本屋の善公だな。 明けましておめでとうございます、昨年中はお世話様に なりまして…。 夜中に、年始に来る奴があるか。 お前はまた、うちの馬鹿 野郎に頼まれたな? ええ、馬鹿野郎に頼まれて…。

 (下から)善公、善公ォ、忘れものだ、紙入れを洋ダンスの抽斗に。 おい、 こら、馬鹿野郎! 帰ってきやがったな。 えっ、善公は器用だ、親父そっくり だ。

コメント

コメントをどうぞ

※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。

※なお、送られたコメントはブログの管理者が確認するまで公開されません。

※投稿には管理者が設定した質問に答える必要があります。

名前:
メールアドレス:
URL:
次の質問に答えてください:
「等々力」を漢字一字で書いて下さい?

コメント:

トラックバック