柳亭こみちの「稽古屋」2018/04/02 06:59

 柳亭こみちは女流、昨年秋真打昇進した。 落語研究会でずっと演りたかっ た「稽古屋」を演れる、噺家人生、今日の為にあった。 研究会を愛し、高座 返し、下座の太鼓など打って十数年、お客様がどこに座るか、どなたが寝るか、 みんな知っている。 気合を入れて、髪もきれいな七三に分けて来た。 スタ ッフもお馴染みで、大恩人のプロデューサー今野徹さんがいらっしゃらないの が残念(昨年暮亡くなった)、お世話になっていて、妊娠を最初に告げたのも今 野さん、今野さんの子じゃないけれど。 鳴り物の太鼓は、噺家の必修、太鼓 が上手くなると、噺も上手くなる、比例すると言われている。 例外もあるけ れど。 太鼓は大小あるが、難しいのは大きい方、おおど、大太鼓。 掃除の 「はたき」を左手でかける。 撥(ばち)二本を均等に打つのが難しいので、 「はたき」と靴ベラを持って掃除する。 日常生活に活かして下さい。 プロ グラムの長井好弘さんのコーナー(当世噺家気質)に出るのも初めて、連れ合 いとの馴れ初めまで書いてくれた。 2006年に二ッ目になって、落語協会の若 手野球部に入ったが、対戦相手の漫才チームの捕手だった。 人生のヒット、 寄席の関係者で結婚したい女性は、こぞって野球を始めた。

 こんちは、隠居さんいますか。 八っつあんかい。 仲間で女をこしらえた り世帯を持ったりするのがいる、あっしはどうして女ができないか訊きに来た。  無理もない、持てる要素がない。 一・見栄、二・男、三・金、四・芸という な。 一・見栄、なりかたちだな、着物の格子が荒い、帯も太い、足袋も白で も黒でもなくて灰色だな、ちびた下駄、地べたに鼻緒を据えたような下駄は駄 目だ。 二・男、顔かたちだ、富士額(びたい)っていうが、それオデコかい、 猫より狭い、右はゲジゲジ眉で、左は波打っている。 三・金、一番よくない、 お前のあだ名は「潜水艦」、「ナミノシタ」だ。 持っているよ。 どれだけ、  世捨て人みたいなもんだろ。 婆さんが聞いている、女はおしゃべりだ、夜中 に手拭いをかぶった奴が来て、出刃包丁でブスッとやられる。 婆さん、湯へ 行け。 猫が聞いてる。 おい、あっちへ行け。 猫も追っ払った、いくら持 ってる? 三十銭。 ただの三十銭、引っ叩くよ、子供だって持ってるよ。

 四・芸、何かあるか。 芸? かくし芸だ。 知ってるでしょ、湯屋で見て、 毛深い。 芸だよ。 米屋の角を曲がって三軒目、御神燈が下がっているとこ ろに五目の師匠がいる。 わしも清元を習ってる、女師匠だ。 年は? 二十 六。 あっしは二十九、三つ違いだ。 器量は? 十人並み以上だ。 ひとり もんか? おっ母さんといっしょに住んでる。 行く、行く、今すぐ。 月謝 と膝付、膝付というのは入門料だ、月謝一円と膝付の一円、二円貸してあげる。  膝付は受け取らないから、すぐ持って戻って来い。

 米屋の角を曲がって御神燈、三味線の音がする。 岩田の隠居に聞いて来た、 あなた二十六ですってね、愛想がいい、ひとりもんですってね? 売れ残って。  月謝と膝付です、膝付は受け取らないそうで。 ところが、町内の棟梁に叱ら れまして、江戸っ子が一旦出したものだからってね、頂くことにしてます。

 お下地はありますか? いい塩梅に、野田に親類がいて。 今日は初回だか ら、清元の「喜撰」を。 おしょさん、お願いします(と、声をかけると、三 味線が鳴る)「♪世辞で丸めて浮気でこねて、小町桜の眺めに飽かぬ…」。 こ こまで、お願いします、ヤーー、オイ! 大胆な呼びかけで。 きっかけです。  (調子っぱずれで、一本調子に)セジデマルメテ……ウウウ。 一息は無理、 息を継いでください、和田アキ子じゃありませんから。 セジデマルメテ…… ウウウ。 わざとやってるでしょ、あなた、節を付けて。 (浪曲の節で)セ ジデマルメテ……。 浪花節じゃありません。 口三味線でやりますか。 脇 で、待っていて下さい、子供衆の稽古がつかえていますから。

 みぃちゃん、ご挨拶、手を三角にして、そう、道成寺の手鞠唄から、テンツ クテン、ヤー、テンツルテン、何、袂(たも)がブラブラしているのは、大き なお芋、いけません、そんなもの持ってきちゃあ。 出しなさい、脇に置いて。  はい、お鞠をついて、回って、花びらをすくいます。 クルッと回って、はい、 そうよ。 みぃちゃん、どうしたの、急にベソかいたりして。 さっきのおじ さんが、私のお芋食べちゃって。

 はい、二度目のテンツクテン、ヤー、テンツルテン、花の都は……、合わせ 鏡を…。 みぃちゃん、何、どうしたの、急に笑い出したりして。 さっきの おじさんが、足の臭いを嗅いでる。 あなた、何してるんです。 納豆こぼし まして、踏んずけちゃって。 テンツルテン、かむろさん、はい、お鞠を一、 二、三とついて、よく出来ました。 ありがとうございました。

 おじちゃんの番です。 清元は性に合いません、別のを、お願いします。 で は上方の二上がりの曲で「すりばち」、「えー、海山を越えてこの世に住みなれ て、煙が立つる、しずのめの……」、風に向って大きな声を出せば、声がふっ切 れるから、声がふっ切れたら、またいらして下さい。

 八っつあん、大屋根に上がって、「えー、海山を越えて! 煙が立つ! 煙が 立つ!」 源ちゃん、火事だってよ。 方角はどっちだ? 海山を越えて! そ んなに遠くっちゃあ、行けねえや。

 こみちの「稽古屋」、満を持し、気合を入れてきたというだけに、清元や唄、 みぃちゃんの踊りなど、こちらは門外漢ながら、相当の稽古の成果が感じられるものであった。