桃月庵白酒の「粗忽長屋」2018/04/05 07:17

 思い込みは怖い。 6時半の開演を、7時のつもりでいた。 6時になった ら、着物つくろうか、と。 気付いて、出番は何番目、慌てた自分が悔しい。  観る方で通っていた頃は、6時開演だった。 それで7時と思い込み。

 寛容な心が大切。 噺をしていて、ネタがつく、ってことがある。 お客さ んが、クスクス笑い出す。 覚られたか。 そこをカットしたら、サビにつな がるところだったりする。 気づいたお客さんが、クスクス笑い出す。 寛容 さが大切。 周りが見えなくなる。 前座の頃、師匠の家で外の掃除をする。  アスファルトにくっついたガムを針金でほじったりしていると、面倒くせえな あ、お前は、って言われた。 いざ、弟子を取ると、言わなきゃあわからない んだなあと、わかる。 エジソン、天才と言われるが、研究に夢中になると、 自分が誰だかわからなくなる。 郵便配達が、エジソンさんいますか? いま せん。 途中で、薄々感じるけれど、認めたくない。 傍目から見ると、面白 いけれど、身内は大変だ。 マンションで、燃えるゴミは月・木ですよ、って 言われているのに、燃えるゴミは、金・土でしたっけ、と。 そういう方達が 集まってくると、素敵な社会が出来上がる、長屋でも…。

 雷門の前に人だかり。 イキダオレ。 江戸っ子のフラメンコか、粋だ、オ ーレ! 人の股ぐらをくぐって、前へ出る。 すいません、遅くなりました。  今、来たら、イキダオレだそうで、まだ始まらないんですか? 始まる? どち らかというと、終わっているんじゃない。

 日本一! たっぷり! 見世物じゃない、死んでるんだよ。 イキダオレが、 死んでるってのは、頓智ですか。 見ちゃって、いいんですか。 どうしたん だい、この人を知っているのかい。 死んでる、こいつはお隣さんで、兄弟同 様にしてる。 兄弟同様なら、引き取ってもらうわけにはいかないか。 しょ せんは、赤の他人ですからね。 今朝も、こいつに会ってね。 じゃあ違う、 ゆんべからここに倒れているんだ。 会ったんだから、仕方がない、こいつは 熊の野郎だ。 違う、違う。 そこまで言うんなら、当人を連れて来ます。 ち ょっと、待って。 皆さん、笑ってないで。 早く戻ってらっしゃい。

 熊ーーッ! 熊ーーッ! 兄貴、何やってんだ、空家を叩いて。 熊なんて 野郎が、この長屋にいるか…、アッ、俺が熊だ。 お前は、ゆんべ、浅草で死 んだよ。 初耳だ。 浅草へ行ったら、お前が死んでた。 元気だったか。 元 気なわけはない。 ゆんべ、どこへ行った? 吉原ひやかして、馬道へ行って …。 これから行こう。 今さら、俺の死骸に会ってもな。 当人を連れて来 るといったら、当人という言葉に、向こうの人も言葉につまった。 これから 弔いだよ。 お前も働けよ、当人だしな。

 本当に連れて来ましたよ。 どうも、先ほどは。 何やってんだ、恥ずかし がって、お世話になったんだ、挨拶しろ。 すみません、私、ここで、倒れて いたそうで。 これ、俺? 顔、こんなに長くないよ。 夜露を吸って、伸び たんだ。 ゲジゲジ眉に、鼻が胡坐をかいていて、口は受け口だ、俺より兄貴 に似ている。 エッ! そうか……、俺です。 動かすんじゃないよ。 倒れて いるのは俺だが、引き取って行く俺は、誰だ。