柳家小三治「千早ふる」前半2018/04/06 07:50

 お運びを頂きまして有難うございます、自分で年取ったつもりはないが(と、 お茶を飲む)、年取ったらしい。 定期健診をして、教授なんて方がご覧になっ て、腎臓がちょっと心配だけれど、年のことを考えれば、あと十年は間違いな いと、おっしゃる。 十年しか持たないのか。 去年、頚椎の手術をして、立 派な手術、七千件やったけれど、こんなにうまく行ったことはない、アメリカ でも二三年やったという、六十位の人ですが、百までは大丈夫だ、と。 今、 七十八歳、二十三年大丈夫だと言ってくれた。 こないだは、あと十年。 よ ろしくお願いします。

 えーーッ、そうですね、知らないのに知ったふりをするのは、よくない。 ろ くなことがない。 小学校に入った頃、新宿の真ん中ですが、焼け野原で、校 舎がない。 巡回映画会ってのがあって、敷布を何十枚も張って、風にそよそ よ、鞍馬天狗なんてのをやる、鞍馬天狗が出て来ると手を叩いたりして、楽し んでやったもんです。 普段は、なかなか映画は観られない。 材木屋や医者 の倅なんてのが、まわりにいて、よく映画を観ている。 その話を聞いて、そ うだったねなんて、みんな、知ったかぶりをする。 それが嫌(いや)、屈辱的 なものでございました。 知らないことは、知らないと言ったほうがいい。 そ れで恥かいた人は、いっぱいいる。 一方、知っているのに、知らないふりを するのは、ほめられたことではない。 記憶にございません、というのが、ひ と頃流行った、懐かしい言葉。 嘘つき。 忖度。 二宮ソンタクという人が いた。 皆さん、知っている。 知っているのに、知らない、というのが、普 通の言葉。 知っているのに、知らないふりをするのには、付き合いきれない。

 先生、伺いたいことがある、ウチに娘が一人いまして、面白いことに凝って、 伊勢屋のお嬢さんたちと、一人が何とかーーーッて読んで、はい、ありました、 ペッタンなんてのをやってましてね。 ヤクニンシュウとかいう。 百人一首 だな。 それで、ワケを調べ合ったら面白いだろうということになった。 歌 を詠む人の中に、いい男がいるそうですな。 この人、有名中の有名、何てい いましたかな。 知ってるよ、お茶でも飲みな。 在原業平じゃないですか。  そう在原業平、いい男、いい女は小野小町。 その業平の歌が…。 知ってる よ。 <千早ふる神代もきかず竜田川からくれないに水くぐるとは>という。  お前、どうして? 娘が何度も繰り返すんで、耳タコになっちゃって。 明日、 娘がそのワケを話すことになって、聞いてきた。 知らねえのは残念だから、 はばかりが先だと、長屋のはばかりに入って、考えてたけど。 その内、あき らめて帰るだろうと思ったら、帰らない、ウチの娘だ。 それで思いついたの が、先生。 高慢なツラしてるから、知ってるに違いない、教えて下さい。 教 えてやってもいいが、高慢なツラってことはないだろうね、そういう言い方は ないよ。 お高慢なツラ、町内の人はみんな言ってますよ、先生を尊敬してい ますよ。

 何でも人に聞くのはよくない、聞く前に考える、どっから考えればいいか、 考える。 そうすれば、血になり、肉になる。 素直に考えなさい。 「千早 ふる」と言えば「神代もきかず」だな、順になっている。 言葉をきれぎれに 言っただけだ、ワケを教えて下さい。