柳家小三治「千早ふる」後半2018/04/07 06:58

 「竜田川」は、何だと思う? 「思うか」ってんだ。 いいですよ。 思うな ら思う、思わないなら思わない、はっきり言え! 思いますよ! チキショウ の浅ましさ、川の名だと思うのは、浅はかだ。 相撲取だ、江戸時代強かった。  田舎で大関を欠かしたことはない。 江戸へ出て、修業をした。 神、信心し て、断ち物をした。 茶断ち、煙草断ち、酒断ちなんかじゃなくて、女を断っ た。 大関になるまでは、と。 五年で立派な大関になった、と思いなさい。  願解きをして、女房を持っていい体になったから、金さんも安心しておくれ。

 お客さんに、吉原に誘われた。 絶景、花魁道中を見た、清掻(すががき) という三味線に乗って、チャンランチャンランと、絶世の美人揃い、シャナリ シャナリと、三番目に出たのが、当時、飛ぶ鳥を落とす勢いの千早大夫だ。  竜田川は、震えが三日止まらない。 発疹チブスですか? あの花魁と、一度 でも話がしてみたい。 仲之町のお茶屋へ呼んでもらった。 だが一流になる と、相撲取や噺家の席には出てこない。 わちきは嫌でござんす。 妹花魁の 神代大夫にも話をすると、姉さんの嫌なものは、わちきも嫌でござんす。 二 人に振られた。

 辞めちゃおうかな、相撲取。 まっつぐ、国に帰った。 国に帰って、豆腐 屋になった。 何で相撲取が、豆腐屋に? 年寄になって、手を上げて「待っ た!」なんて言うのが嫌で、当人が辞めると言ったんだ。 実家が豆腐屋だっ た。 両親の前に両手をついて謝った。

 稼ぎに稼いで、五年で立派な店を建てた。 先生の話は、五年ばかりだ。 五 年が目安だ。 秋の夕暮れは、物寂しい。 竜田川の豆腐屋が、豆を挽いてい ると、一人の女乞食が、竹の杖をついて、ふらふらとやって来た。 お腹が空 いている、卯の花をひとつかみ、頂けないかと。 互いに見合わす顔と顔、チ ャチャンチャン、浪花節だよ。 この女乞食、誰だと思う? 千早花魁の成れ の果てだ。 何で絶世の花魁が五年で、女乞食になるんです。 いいだろ、な ったって、当人がなりたいっていうんだ、お前。

 竜田川は怒った。 御免なさい、って言う、肩のところをドンと突いた。 千 早は、羽毛のようにフワフワ飛んで行った。 塀があったからよかった、ゴム まりのように、女乞食は弾んで戻って来た。 豆腐屋の前に井戸があって、柳 の木があった。 その柳の下で、落涙に及んだ、チャチャチャン。 井戸の中 にドボン、あえなくなった、チャチャン。 夜、井戸の中から、ウラメシヤっ て、出てこない。 これで、話はお終いだ。

 初めから、「千早ふる」だろ、「神代もきかず竜田川」となるだろう。 卯の 花をくれない、「からくれないに」、井戸に飛び込んで「水くぐるとは」と、な るだろう。 「とは」が、余計のようですが? 勘定高えな、よーく調べたら、 「とは」は千早の本名だった。

コメント

コメントをどうぞ

※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。

※なお、送られたコメントはブログの管理者が確認するまで公開されません。

※投稿には管理者が設定した質問に答える必要があります。

名前:
メールアドレス:
URL:
次の質問に答えてください:
「等々力」を漢字一字で書いて下さい?

コメント:

トラックバック