三遊亭歌太郎の「電報ちがい」後半2018/05/01 07:10

 用紙に必要事項をお書き下さい、電報の本文を。 本文? 新橋から、汽車に 乗ったんだ。 旦那が横浜にいい女郎屋があるってんで、横浜で降りて、馬車 道の女郎屋にあがった。 旦那は太った女が好き、俺は痩せた女が好き、俺の 敵娼(あいかた)は情の深え女で、江戸っ子は大好きだってんで、袂(たもと) の下に手を入れてコチョコチョ、いいじゃないか、サアーって! 本文は? 静 岡で降りて、前に店にいた亀さんの店に行った。 亀さん、涙ポロポロ流して、 静岡一の料亭に連れて行き、静岡一の女郎屋にあがった。 本文は? 旦那は 太った女が好き、俺は痩せた女が好き、俺の敵娼は情の深え女で、江戸っ子は 大好きだってんで、袂の下に手を入れてコチョコチョ、いいじゃないか、サア ーって! 郵便局の前は、人だかり。

 カラスカアで夜が明けて、お伊勢参り、内宮、外宮、二見が浦を三日間で見 物して、帰ろうということになった。 それで身投げ助けて、電報打ちに来た。  用紙に必要事項をお書き下さい。 俺に字が書けるんなら、こんなに話はしな い。 本文は? そうだ「アスアサケエレン」だった。 「アスアサカエレヌ」 ですね。 差出人は? 「ダンナ」 名前は? 名前は知らない。 ずっと可 愛がられて、12の年から、旦那と新さんで25年。 俺の名前も、記念に入れ てくれ。 名前は? 新太。 15銭です。 7銭だろ。 10文字まで15銭、 3時までは7銭でしたが、今、4時半。 東京へ来たら、日本橋石町一丁目の 生薬屋、大黒屋に寄ってくれよ、新さんと言って。

 遅いよ、新さん、何やってたんだ。 郵便局の野郎がタラタラしていて…。  宿屋の番頭さんが通って、郵便局で新さんが人気者になっているって、見て きたよ。 二人の話を聞いた、男は品川のお寺、女は実家が医者、うなずきに くい関係なんだ。 私は品川で降りて、お寺のご住職に話して行く。

 ドンドン、宿屋の番頭です、大変なことが起こりました。 本日、お乗りに なるはずだった汽車が、岡崎・安城間で下りの貨物列車と正面衝突して、全員 死亡とのことです。 命を助けたお前さんたちに、命を助けられた。 お泊り の皆様に、お酒をご馳走してくれ。

 駅前で号外を配ってました、名古屋8時発の夜行列車が岡崎・安城間で下り の貨物列車と正面衝突して、全員死亡だそうです。 あらまあ、旦那様がお乗 りになるのは8時、20時名古屋発…。 電報です。 「アスアサカエレヌ、ダ ンナシンダ」 今日はもう店仕舞いだ、忌中の札を出して…。

 旦那は品川で降りて、男の実家のお寺へ。 新太は、日本橋石町に帰って来 た。 何だこれ、花輪が出ている。 タバコ屋のおかみさんか、キンシンソウ カン、シンキンコウソクとかで。 ウチだよ、おかみさんか。 只今、帰りま した。 オッ、新さんだ、お前さんは無事だったのか。 旦那の身柄はどうな っている? それだったら心配いりません、旦那は疾(と)うに品川のお寺に 着いております。

立川雲水の「看板のピン」まくら2018/05/02 07:09

 立川雲水、額が広く、鬢(びん)の毛が白い。 立川流だが、上方弁だ。 本 日は、北緯38度を越え、北朝鮮から派遣されて参りました、ご安心下さい、 我々の体制は崩壊致します、と始めた。 博打(上方アクセント)、ギャンブル に縁がない。 バク才がない、能力が足りない、と自己分析している。 まず 師匠選びで、大火傷している、寺銭が高くて、大赤字だ。 談志は、競輪、競 馬はやらない。 麻雀はやっていて、いつも勝つ。 自転車も、馬も、ポケッ トに隠すことはできないから、と兄弟子が言っていた。

 大相撲、プロ野球、高校野球と、博打はいろいろあるけれど、「本引き」が一 番面白い。 「手本引き」と「賽本引き」がある。 (上方弁なので、このあ たり分かりにくかった) 「手本引き」、親は1から6までの札の中から1枚 を選び、子は1点張りから最大4点張りまで、親の札を推理して賭ける。 1 点張りは配当が高く、4点張りは低い。 札の置き方で、いろいろ出来る。

 面白い博打だけれど、基本的には禁止されていて、めったに行けないような 場所でやっている。 西成区○○○通りの10階建てのマンションの10階、招 待されている人だけしか入れない、ある種の公務員などは絶対駄目。 エレベ ーターボーイに、「11階にお願いします」と言うと、10階の部屋まで案内する。  ある種の公務員がエレベーターに乗って、「10階」と言うと、エレベーターが 閉まって、缶詰になる。 故障が直った頃には、博打場はすっかりきれいに片 付いている。 これは、人から聞いた話だ。 月亭可朝から聞いた。

「手本引き」のほかに、「賽本引き」がある。 サイコロは、1の裏は6、2 の裏は5、3裏は4と、表裏足して7、合計21になる。

立川雲水の「看板のピン」本篇2018/05/03 06:47

 「手本引き」のほかに、「賽本引き」がある。 サイコロは、1の裏は6、2 の裏は5、3裏は4と、表裏足して7、合計21になる。 (羽織を脱いで)お やっさんじゃないですか。 若いもんが集まって、何遊んでるんだ。 「賽本 引き」で遊んでる、いっしょにやったらどうです。 この年寄から、金を巻き 上げようってのか。 一丁やるか、一勝負するか。 壺皿と賽を貸せ、胴を取 る。 四十で、故(ゆえ)あって足を洗ったんだ、嬉しいよ。 張った、張っ た。

 (小声で)壺から、賽がこぼれてるぜ、ピン(1)だ、耄碌してる、むしっ てやったらいい。 むしったろー、むしったろー、おやっさんを。 みんな、 クイチ(1点張り?)は五倍だ。 みんな寄って、クイチで勝負か。 おやっ さん、泣き入れても駄目だぜ。 家を始末して、娘を売り飛ばしても、払う。  兄貴から預かっている銭も、張らしてもらう。 もう張り手はおらんか。 看 板のピンは、こっちへどかしてもらう。 看板かい。 薬屋にも足袋屋にも、 表には看板がある。 客集めの看板のピンだ、泣くな。 勝負は壺皿の中だ。  壺の中は…、5だ。 泣くな。

 博打事には、上があるんだ。 張った分だけ、持ってけ。 これに懲りて、 真面目に働け。 おやっさんの言葉、身に沁みました。 5と読んでましたか?  最前使った賽は、2の所に鉛が埋め込んである。 博打は恐ろしい。 その賽、 ほかすんなら、ワシに預からしてもらえませんか、足止めの道具に頂かせて下 さい。

 ありゃあ、いい手だな。 これで銭儲けしてやろう、伝家の宝刀だ。 博打 やってか、ドンドン! 大きな声出すな。 (小声で)始まっているか。 表 で大きな声出して、中で小さな声になる奴があるか、入ってけ。 この年寄か ら、金を巻き上げようってのか。 お前、一番若いじゃないか。 一勝負させ てもらおうか、胴取らせてもらう。 四十で、故あって足を洗った。 お前は、 毎日やってる、二十四だ。 勝負や、どんと張って来い。 クイチで張ってき よったな、勝負は壺の中だ。 泣きを入れても駄目だぜ。 家を始末して、娘 を売り飛ばしても、払う。 お前、徳さんの居候じゃないか、娘なんて、嫁も いないくせに。 今日び、娘に、酒飲んでキスする奴もいる、驚かへんか。 看 板のピンは、こっちへどかしてもらう。 壺の中は…、5だ。 みんな、クイ チで5に張ってる。 どうしてこうなんだ。

 おやっさんに、教わったんだ。 儲けた銭は、半分おやっさんに、かもられ る。 お前が、インチキをやるなんて、おこがましい。 必ず5が出るサイコ ロや、2(荷)が重い。

林家正蔵の「山崎屋」前半2018/05/04 06:38

 毎年7月、海外へ出かける、さん喬さんとアメリカのバーモント州、日本で いえば青森県ぐらいの緯度のところで、リンゴと蜂蜜というとわかりやすい、 メープルシロップもとれる。 そこのサマースクール、全米から優秀な学生が 集まる言語の学校で、日本語のスクール、日本語以外を使ったら帰らされる。  優秀なクラスは、洒落を言わないデーブ・スペクター、頭がいい、ハーバード なんかから来ている。 落語における日本人の美意識なんて、質問が出る。 初 級は下がる、幼稚園ぐらい、ふだんはどんな商売をなさっているのか、なんて 聞く。 東大から、浮世絵を教えているという先生が来ていて、吉原に興味が ある、タイムマシンがあったら、行って見たいなんて言う。

 吉原、遊女三千人御免の場所、北国(ほっこく)と言ったのは、お城の北に あったから。 吉原には、いろいろと決め事があった。 どんな人も、駕籠を 降りて、大門をくぐらなければいけない。 里言葉というのがあって、ああし まほう、こうしまほう、の魔法にかかって、みんな通った。 花魁には、階級 があって、一番上は太夫職、花魁道中をやる。 大きな傘を差して、禿(かむ ろ)を従え、三本歯の駒下駄で、内外(うちそと)八文字にコロリカラリと歩 く、文金赤熊縦兵庫、横兵庫に派手なかんざしを挿し、豪華に着飾って…(仕 掛けその他の衣裳は、知識が無くて書けない)。 花魁とは、いくらで遊べるか。  昼三分、昼夜一両、今の十万円位というけれど、ほかにも掛りがして、必ず新 造(しんぞ)が付いてくる。 その時分のお話。

 番頭、こっちに来て。 若旦那、何かご用で。 金貸して。 おいくら。 た った三十両。 一両、二両ならなんとかなりますが、三十両は大金、とても出 来ません。 筆の先でチョコチョコと、ごまかして。 ごまかして…、八つの 時からご奉公して、そんなことは一度もしたことがない、困ります。 大きな 声を出すな、野暮な奴だ。 声の大きいのは地声、野暮で結構。 番頭さんは 粋な人ですよ、あんないい女を連れていた、あの女、どうしたの。 妙なこと をおっしゃいますね、女の方は苦手で、転ぶと石橋が痛いというほど、堅い。 

ちょっと話につきあってくれ、先月の二十日、町内の湯屋が休みでね、隣町 の鶴の湯に行ったんだ。 出てくると、女湯から抜けるように色の白い二十七、 八の乙な年増が出てきた。 色っぽいお召しで、帯をひっかけに、黒髪をくし 巻きにしている移り香がよかったんで、ふらふら後をついて行った。 路地の 行き止まりが四軒長屋で、二軒目に御神燈、清元なんの何某とある乙な家に入 った。 長屋のおかみさんに、あちらで清元を習えるかと聞くと、ありゃあお 囲いさんだというじゃないか。 どこの誰かと聞けば、日本橋横山町三丁目の 鼈甲問屋の番頭さんだという。 三日前のことだ、お前がいやにそわそわして いて、ひょいと店を出た。 付いて行くと、隣町の鶴の湯の前を通って、足が 速い、兎みたいだ。 あの家の戸が開いていて、覗くと、あの女と、お前によ く似た男が話をしていた。 この話は、お父っつあんにしないといけない。 大 きな声は出さないで下さい、そんな野暮な。 声の大きいのは地声、野暮で結 構。 あれは年の離れた妹で。 妹だからっていっても、いいもんじゃない。  三十両で何をなさいます? すぐに吉原へ行って花魁に会う。 三十両もいる んですか。 いろいろ掛かる、新造も付いてくる。 三十両出せば、私はこの 店にいられなくなる、若旦那は勘当になる。 そこで相談だがと、番頭。

林家正蔵の「山崎屋」後半2018/05/05 08:13

 そこで相談だが、若旦那は本当に花魁に惚れているんですか。 花魁と所帯 が持てれば、遊びを止めますか。 世の中、表もあれば裏もある。 狂言を考 えましょう。 若旦那は、半年廓通いをお止めになれますか。 花魁を親元身 請けして、町内の鳶頭(かしら)の家に預かってもらう。 鳶頭のおかみさん がよくできているから、その妹で、お屋敷に奉公していたということにして、 しっかり仕込んでもらう。 若旦那には、店をきちんと手伝って頂く。 小梅 の水戸様にお掛け取りがあるが、あなた様に行って頂く。 財布を鳶頭のとこ ろに預けて、店に戻って、懐に財布がないと言うと、大旦那に怒られる。 そ こへ鳶頭が財布を拾ったと、届けに来る。 鳶頭の所に、大旦那がお礼に行き、 花魁がお茶を出す。 おかみさんの妹で、お屋敷に奉公していたが、どこか商 家に片付けたい、箪笥長持他の嫁入り道具に、持参金が三百両ある、と。 言 っちゃあなんだが、お父っつあんは欲深い、三百両に目が眩んで、あなたと花 魁が一緒になる。 偉い、お前は悪党だねえ。

 半年たったある日。 小梅の水戸様に百両の掛け取りがある、番頭が大旦那 に、よんどころない用があって私は行かれない、いかがでしょう若旦那様に行 っていただいたら。 油を背負って、火に飛び込むようなものだ。 若旦那は すっかり料簡を改めて、よくおやりです、万一駄目なら、百両は手切金とお思 いになって、夫婦養子をもらわれたらいかがでしょう。 一度は、試してみる か。 お父っつあん、小梅の水戸様に行ってきます。

 帰りに鳶頭の所に寄ると、おかみさんが、花魁実にいい人で、いま針仕事の お稽古をしています、と。 只今、戻りました。 番頭! 倅が戻って来たよ。  ご苦労だったね、掛け取りのお金は…。 (懐に手を入れ)はてな? あの時、 チャリンといったのが、そうだったのか。 友達の所に預けたな、どこに預け た。 ごめん下さい。 鳶頭か、取り込み中だ、後にしてくれ。 こちらも大 変な用で。 道で足にひっかかったものがある、こちらの財布でした。 助か ったよ。 番頭、あいつは本当に掛け取りに行ったんだ。 鳶頭にお礼を。 も う、お帰りになった。 ここはひとつ旦那様に、お礼に行って頂かなくては。  手ぶらはいかがかと。 行きがけに、半紙の一帖も。 エッ。 二帖かい。 十 両の目録を、一割がお礼の相場ですから、それと「にんべん」の二分の鰹節の 切手。 そんなにしなけりゃ、駄目なのか。 鳶頭は江戸っ子ですから、必ず や二分の切手を取る、私が請け合います。

 鳶頭、いるかい。 こりゃあ、旦那様。 話がある、改めて礼を言う、倅の 料簡が改まった。 これからだ、よく聞いてくれ、ここに十両の目録と「にん べん」の二分の切手がある。 いつもお世話になっております、夏冬には半纏 も頂いて、「にんべん」の二分の切手だけ受け取ります。 お茶をどうぞ。 き れいな人だね。 かかあの妹で。 似てないね。 ずっとお屋敷に奉公してい たんですが、商人(あきんど)に嫁ぎたいと申してまして、箪笥長持他の嫁入 り道具に、持参金が三百両、どこかいい所はありませんかねえ。 ありますよ、 ウチの倅はどうだろう。 あいつが貰わなければ、わしが貰う。 若旦那、遊 びを止めて、仕事に精を出されているそうで…。

 お父っつあん、お茶が入りました。 お前のお茶はうまい。 よく家に来て くれたね、本当の親のように孝行してくれる。 上総屋の旦那に、お嫁さんは お屋敷に奉公していたそうだが、どこに奉公していたのかって、聞かれた。 北 国ざます。 北のほうかい、加賀様だろ、ご大身だ、お女中も多いんだろうね。  三千人ざます。 お女中も道中はするんだろうな、駕篭で行くのか。 道中は するんざます、駕篭乗り物はならないんです。 三つ歯の高いぽっくりで、朝 は遅め、夕方に出て、伊勢屋ィ行って、尾張の、大和の、長門の、長崎の…。  おいおい男の足だってそんなに歩けない。 諸国を歩く六十六部、足の達者が 飛脚と天狗……お前には憑き物がした、六部に天狗が憑いたんだな。 いいえ、 三分で新造がつきんした。