林家正蔵の「山崎屋」前半2018/05/04 06:38

 毎年7月、海外へ出かける、さん喬さんとアメリカのバーモント州、日本で いえば青森県ぐらいの緯度のところで、リンゴと蜂蜜というとわかりやすい、 メープルシロップもとれる。 そこのサマースクール、全米から優秀な学生が 集まる言語の学校で、日本語のスクール、日本語以外を使ったら帰らされる。  優秀なクラスは、洒落を言わないデーブ・スペクター、頭がいい、ハーバード なんかから来ている。 落語における日本人の美意識なんて、質問が出る。 初 級は下がる、幼稚園ぐらい、ふだんはどんな商売をなさっているのか、なんて 聞く。 東大から、浮世絵を教えているという先生が来ていて、吉原に興味が ある、タイムマシンがあったら、行って見たいなんて言う。

 吉原、遊女三千人御免の場所、北国(ほっこく)と言ったのは、お城の北に あったから。 吉原には、いろいろと決め事があった。 どんな人も、駕籠を 降りて、大門をくぐらなければいけない。 里言葉というのがあって、ああし まほう、こうしまほう、の魔法にかかって、みんな通った。 花魁には、階級 があって、一番上は太夫職、花魁道中をやる。 大きな傘を差して、禿(かむ ろ)を従え、三本歯の駒下駄で、内外(うちそと)八文字にコロリカラリと歩 く、文金赤熊縦兵庫、横兵庫に派手なかんざしを挿し、豪華に着飾って…(仕 掛けその他の衣裳は、知識が無くて書けない)。 花魁とは、いくらで遊べるか。  昼三分、昼夜一両、今の十万円位というけれど、ほかにも掛りがして、必ず新 造(しんぞ)が付いてくる。 その時分のお話。

 番頭、こっちに来て。 若旦那、何かご用で。 金貸して。 おいくら。 た った三十両。 一両、二両ならなんとかなりますが、三十両は大金、とても出 来ません。 筆の先でチョコチョコと、ごまかして。 ごまかして…、八つの 時からご奉公して、そんなことは一度もしたことがない、困ります。 大きな 声を出すな、野暮な奴だ。 声の大きいのは地声、野暮で結構。 番頭さんは 粋な人ですよ、あんないい女を連れていた、あの女、どうしたの。 妙なこと をおっしゃいますね、女の方は苦手で、転ぶと石橋が痛いというほど、堅い。 

ちょっと話につきあってくれ、先月の二十日、町内の湯屋が休みでね、隣町 の鶴の湯に行ったんだ。 出てくると、女湯から抜けるように色の白い二十七、 八の乙な年増が出てきた。 色っぽいお召しで、帯をひっかけに、黒髪をくし 巻きにしている移り香がよかったんで、ふらふら後をついて行った。 路地の 行き止まりが四軒長屋で、二軒目に御神燈、清元なんの何某とある乙な家に入 った。 長屋のおかみさんに、あちらで清元を習えるかと聞くと、ありゃあお 囲いさんだというじゃないか。 どこの誰かと聞けば、日本橋横山町三丁目の 鼈甲問屋の番頭さんだという。 三日前のことだ、お前がいやにそわそわして いて、ひょいと店を出た。 付いて行くと、隣町の鶴の湯の前を通って、足が 速い、兎みたいだ。 あの家の戸が開いていて、覗くと、あの女と、お前によ く似た男が話をしていた。 この話は、お父っつあんにしないといけない。 大 きな声は出さないで下さい、そんな野暮な。 声の大きいのは地声、野暮で結 構。 あれは年の離れた妹で。 妹だからっていっても、いいもんじゃない。  三十両で何をなさいます? すぐに吉原へ行って花魁に会う。 三十両もいる んですか。 いろいろ掛かる、新造も付いてくる。 三十両出せば、私はこの 店にいられなくなる、若旦那は勘当になる。 そこで相談だがと、番頭。

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