柳家甚語楼の「ちりとてちん」前半2018/06/07 07:13

 お客様と、相対することがある。 当たり障りないことでなく、ワンランク 上の褒め方がある。 楽屋に訪ねて来る人もいる、たとえ手ぶらでも。 でも、 響くかというと、そうとは限らない。 お客様が思っているほど、緻密ではな い。 間が良かった……セリフ忘れてた。 表情が上手かった……くしゃみを こらえていた。

 お清、片してくれたか。 大分、余っています。 この温気だ、傷むといけ ない、お向うの金さんを呼んで来てくれないか、世辞もんだが、腹ン中はさっ ぱりしてる。 どーーも、ご無沙汰いたしております、ご壮健のようで何より です。 今朝、湯で会ってる。 失礼しました、このところ物忘れがひどくて。  実はね、碁の会をやるはずだったんだが、取りやめになってね、誂えた料理が どっさりある、手伝って食べてもらおうかと思ってね。 お料理をご馳走して 頂ける。 お清さんに、わざわざ来ていただいて、有難いことです。 お清、 お膳を。 取って置きのお酒、灘の生一本もある、やって下さい。 世の中に 灘の生一本というものがあることは聞いていたけれど、飲むのは初めて。 こ んな大きな湯呑で。 手酌でやります。 そうですか、恐れ入ります。 美味 しいお酒ですね。 お前さん、まだ飲んでいないよ。 これが灘の生一本、ス ーーッと入っていく。 普段飲んでるのは、何物でもない。 料理もどうぞ、 鯛のお刺身がある。 私、世の中に鯛のお刺身というものがあることは聞いて いたけれど、いただくのは初めて。 透き通るようで、キラキラしていますね、 わさびをつけて。 ウッ、ウーーン、わさびが利いて目に涙。 鰻の蒲焼はど うだ。 口に入れた途端、とろけるんですね。 食べるか、しゃべるか、どち らかにしておくれ。

 金さんが美味しそうに飲むんで、私もお付き合いしよう、お燗をしておくれ。  何か、つまむもの、豆腐の冷奴かなんかないか。 買って参ります。 ありま した、半月ばかり前、鼠入らずの奥にしまっておいたのが。 ちょいと、持っ て来てくれ。 駄目ですよ、黄色い毛がボーーッと生えてる。 うっちゃっち ゃいな。 清、待ちな! 箸と唐辛子を、いいから持って来ておくれ。 ブフ ッ、ブフッ、ブフッ! 金さん、妙な顔して見ているけれど、余興をご覧に入 れよう。 空の瓶に、これを詰めて、六さんを呼んで来てくれないか。 金さ ん、お前さんはお世辞がうまい、六さんはこれっぽっちも言ったことがない。  ご馳走をしても、お礼を言ったことがない。 よくないと思っていたんだよ。  その人が来たら、次の間に行ってくれないか。 一合上戸というやつで、もう 遠慮します。 おまんまでも食べていきますか。 おまんまというと、お米の 飯ですか、世の中、お米の飯というものがあることは聞いていたけれど…。 ま あまあ。

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