柳家甚語楼の「ちりとてちん」後半2018/06/08 07:12

 六さん、すまないね、忙しい所を。 家で仕事をしていたところで。 碁の 会に誂えた料理、手伝って食べてもらおうかと思ってね。 間が悪いね、今、 飯食ったばかりで。 駄目かい。 駄目ってことは、ないけれど。 詰めろっ て言われれば、食べられないことはない。 こっちもいける口だね、灘の生一 本をやって下さい。 どうせ本物じゃないでしょう。 方々で水をいれて、水 っぽい酒というより、酒っぽい水になる。 駄目かい。 駄目ってことはない、 それっきゃないんでしょう、ちょいとでいい。 ん、これなら、まあまあです ね。 鯛のお刺身はどうかね。 腐っても鯛ってね。 刺身はやっぱりマグロ ですよ、中トロにわさびを利かせてね。 鰻の蒲焼は? 嫌えじゃない、どう せ養殖もんだね、これは。 自然の中で育った、厚いのがいい。

 六さんは食通だから、私なんかが喜んでもらおうと思ったって無理だ。 そ うだ、食通の喜ぶものがウチにある。 舶来のもの、台湾の食べ物で、「ちりと てちん」、六さん知ってますか? ああ、あれね、知ってますよ、あっちにいる 時は、ちょいちょいやってました。 ウチにあるんで。 お清、さっきのあれ、 持って来て。 わかんないかね、ほら豆腐の……。 六さん、これなんだけど。  よく、これが手に入りましたね。 脇から頂いたんだけど、高い物だそうだね。  家が一軒買える、食べられれば一人前の食通。 旦那は知らないでしょうが、 これ粉末もある。 ふりかけにして、おまんまにかける。 粉末は、何て言う んだい? 「ちりとんてんちん」。 

お皿の方がいい。 空けてかまわないかい。 お前さんに来てもらってよか ったよ、私は苦手でね、臭いが駄目。 これは臭いで食う物で。 六さん、一 つやって下さい。 あっしが…、ハッハッハ。 アーア、アッ、ちりとてちん、 本当に高え、もったいないから頂いて、ウチへ持って帰って、毎晩楽しみに食 べる。 遠慮しないでいいんだよ、ひと瓶やっても、半月もすりゃあ、また手 に入るんだから。 六さん、脇で出された時に、恥をかくのがいやだ、食べ方 がわからない、教えてくれないか。 六さん、様子がおかしいね、もしかした ら食べ方を知らないんじゃないのかい? 馬鹿なことを言っちゃあいけません、 向こうじゃ朝昼晩とやっていた、大好物です。

アーッ、臭いが鼻とね、喉に来る。 いい出来だ。 食べる時は、箸、匙な し、鼻をつまんで、目もつむる。 皿の端から流し込むように、(口に入れ)ウ ーーッ、アッ、アッ、ヒーッ、ヒーッ、(と、真っ赤になる)ワッ、ワッ、(と、 戻しそうになり、のけぞって、ひっくりかえりそうになり、茶碗を差し出す)。  お酒かい、ハイ。 珍しい食べ方をするんだね、喉から入れたり出したりして。  

ウァーーッ、アーーッ、ガブ、ガブ、ガブ、アーーッ、旨かった。 どんな 味がするんだい? ちょうど、豆腐が腐ったような味。

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