信時潔旧蔵のピアノとリードオルガン2018/06/15 07:05

 信時潔が作曲に使っていたこのピアノは、信時家の玄関を入ってすぐ、家の ほぼ中央の十畳ほどの畳の部屋にあって、奥につづく庭に出られるサンルーム 側に、ピアノとオルガンが置かれ、中央の壁際に大きな書き物机、一方の壁に は天井までガラス戸のついた造り付けの木の棚に大量の楽譜や本が仕舞われて いたという。 作曲中の写真には、譜面を鉛筆で書いていて、鍵盤の上に消し ゴムが写っている。 留学中、マルクの大暴落があって、大量の楽譜が買えた のだそうだ。

 スタインウェイ社製のアップライトピアノで、昭和15(1940)年アメリカ で園芸(ツツジ、椿)で大成功した知人、清野主(つかさ)氏に贈られた中古 品だったという。 修復した太田垣至さんのレポートによると、Model-R(ハ ンブルグ工場製)か Model-I(ニユーヨーク製)と推測され、最も大きいタイ プの最上級機種で、豪華客船タイタニック号にも5台のスタインウェイ社製の ピアノがあったが、そのうち2台がModel-Rのアップライトで、ファーストク ラスで用いられていたという。 歴史的価値の高い、信時潔旧蔵のピアノの修 復には、できる限りオリジナルの部品の素材に近いものを厳選し使用した。 フ ェルト類は、楽器修復家G.ウォーカー氏による100%ピュアウール、皮革類は 皮鞣し職人P.ケンドルバッヒャー氏による鹿革を用いたそうだ。

 オルガンを修復された伊藤信夫さんからは直接、解説を聴くことができた。  昭和8(1933)年神田生まれ、慶應義塾幼稚舎から、大学経済学部を卒業、東 京日産販売に入社したそうで、20年ほど前から奥様の弾くリードオルガンの不 調を直す内に、オルガンの修理・修復をするようになったという。 2017年の 信時潔旧蔵リードオルガンは68台目の修復で、その前年には慶應義塾日吉チ ャペルのリードオルガン(47台目)も修復、現在76台目に取り掛かっている。  信時家のリードオルガンは、YAMAHA製、ミイ夫人の大正12(1923)年の嫁 入り道具だったのだろう。 アメリカにベル・オルガンピアノ・カンパニーと いう会社があるが、第一次世界大戦(1914~1918)を境にして、ベル・ピアノ オルガン・カンパニーと改名した。 オルガンには、パイプオルガン、リード オルガン、電子オルガンの三種がある。 パイプオルガンと、リードオルガン は、悪くなったフェルト、皮、ゴム布を取り替えることで再生が可能、100年 でも、200年でも保つ。 電子オルガンは粗大ごみになる、そうだ。