『下山の時代を生きる』<等々力短信 第1108号 2018.6.25.>2018/06/25 07:17

 劇作家で演出家の平田オリザさんと、言語社会学の鈴木孝夫慶應義塾大学名 誉教授の、『下山の時代を生きる』(平凡社新書)を読んだ。 オリザさんとい う珍しいお名前だが、父上が日本は米が大事な国だからと、ラテン語の米オリ ザと名づけたのだそうだ。 戦後、オリザニンというビタミンB1の薬があっ た。 明治43(1910)年、鈴木梅太郎が脚気に効くとして米ぬかから抽出・ 命名した。 注射のアンプルを製造していた父は、オリザニンレッドというビ タミン注射の流行で、景気の良い時期があった。

 平田さんは、その現代口語演劇と呼ばれる理論を構築するのに、最も影響を 受けた言語学者が鈴木孝夫先生だという。 西洋の近代演劇を翻訳劇として輸 入した日本では、セリフ一つとっても非常に言いにくかった。 その鈴木先生 の著作が、世の中にはびこる「日本礼賛本」と並べられ「トンデモ本」として 揶揄されているのを、ネットで目撃して、この対談を切望したという。 一方、 鈴木先生も、平田さんの『下り坂をそろそろと下る』(講談社現代新書)を読み、 若き同憂の士を得た思いがしたそうだ。

 司馬遼太郎『坂の上の雲』の冒頭をもじって、「まことに小さな国が、衰退期 をむかえようとしている」で始まり、そこには、鈴木先生年来の主張、「日本は さらなる経済成長なんてとんでもない。いや日本だけでなく人類全体が、あら ゆる生物の複雑さを極めた連携的共存共栄をも視野に入れた、全生態系の持続 的安定こそを目標とする下山の時代を迎えている」と、ほとんど違わない考え に基づく、日本人の生き方についての処方箋があった。 今の生活の便利さを 二割諦めるのなら、納得してもらえそうだ。

 鈴木先生は、以前から全世界規模の「鎖国のすすめ」を主張し、江戸260年 の戦争のない省エネシステムの壮大な実績や、日本の古代性と近代を併せ持つ 二刀流を、世界に発信して東西文化の懸け橋になれる、と。 平田さんは、隠 岐島や小豆島での具体的体験から、長野県一国だったら鎖国できるという。 一 つ一つの地域がまずある種の自立をする、食料的にも経済的にもエネルギー的 にも。 地方の自治体が実践している施策を、国全体の政策にできるかが課題。  国だけが、まだ経済成長を前提としている。

 面白い指摘がいくつもある。 鈴木先生は、SFC湘南藤沢で英語を必修から 外したことがあった。 日本人は、英米人の目で世界を見ている。 いま地政 学的に肝要なのは、アラビア語、ロシア語、朝鮮語、中国語だ。 リニアモー ターカーの建設に反対、新幹線の安全保守対策をすべき、何年も前からシート ベルト装備を言っている。  平田さんも、参議院では少なくとも党議拘束を外せ、日本に相応しい政治シ ステムを獲得した上で、10年間「凍憲」し、地球市民の憲法をつくれと提案す る。

コメント

_ 轟亭(技術の下山) ― 2018/06/25 09:04

 たまたま今朝の朝日新聞、鷲田清一さんの「折々のことば」が、菊地信義さん(装幀家)の「技術ってやつも坂道と同じに上るだけではなしに、下ることもできなくては」でした。(『樹の花にて』から。)

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