三田に自力で自宅ビルを建てている男2018/06/27 06:30

 『バベる! 自力でビルを建てる男』(筑摩書房)の岡啓輔さん(52)は、詳 しい経緯は本にあるそうだが、港区のこの一等地に40平米ほどの土地を、約5 千万円の値引きを実現して1500万円で買った。 そこに足場を組み、鉄筋や 型枠を作り、コンクリートを流し込む作業を、全部自分自身でやる、前代未聞 の「セルフビルド(自力建設)」を2005年に開始した。 初めは3年ぐらいで 建つと思っていたそうだが、13年目の現在も作業が続いているので、スペイン のサグラダ・ファミリア聖堂になぞらえて、「三田のガウディ」とも呼ばれると いう。

 岡啓輔さんは一級建築士の資格を持ち、これまでに大工や鉄筋工など建築関 連の実務に携わる様々な仕事を体験した。 そのうえで、建築を「世界そのも の」と捉えるようになり、自力で建てるという選択は「自分の世界」を造るこ とに他ならず、「結局、全部自分でやんなきゃどうしようもない」との結論に至 ったのだという。

 自身が目にした経験から、建築現場で基礎工事の手抜きが横行していること や、阪神・淡路大震災直後にも同様の手抜きの可能性を見て来て、自分で建て るビルは徹底的に強度にこだわり「200年は持つ」と断言する。 東日本大震 災の時も建設中だったが、びくともしなかったという。

 2009年、現場を含む周辺の再開発計画が生まれ、立ち退きの危機もあったが、 開発業者と対話を続け、見通しは少し明るくなってきた、という状況らしい。  問題は、自宅ビルを自分で建てているため、他の仕事が出来ず、自身の収入が ないこと。 そのため、現在はビルの買い手を探している。 ただし、「自分と 妻が生きている間は住ませてもらう」ことが、条件だ。 岡啓輔さんは、朝日 新聞の後藤洋平記者に、「僕らが死んでも、頑丈なビルは残る。買った本人は住 めないかもしれないけれど、絶対にお得な買い物だと思うんですよね」と、語 っている。