柳家小満んの「鉄拐」後半2018/06/06 06:21

 鉄拐仙人にお願いをして、連れて参りました。 よく来てくれたな。 二つ 返事で。 失礼のないように。 それが、格別は駄目で。

 創業記念日の当日となって、広大な庭園で園遊会形式、利兵衛司会でご案内 をする。 まずは、鉄拐仙人! ジャラン、ボワーーン、グワーーン! さっ そく芸のご披露に移ります。 鉄拐仙人が腹をなでると、いつの間にか、もう 一人の鉄拐が現れる。 太鼓橋から覗き込むと、三人目の鉄拐が現れる大サー ビス。 見物は唖然として、幕が下りて、一時経ってから、大拍手、大喝采、 大喜び。

 私に、お客様だと。 隣町の来々軒ですが、こういうのを見たという話を聞 きまして、明晩、手前共でもう一興行やって頂けないでしょうか。 まあ、い いや、来たついでだ。 では、明晩6時に。 あっちからも、こっちからも、 お座敷がかかる。 寄席からも来て、広東の若竹、北京の末広でトリを取った。  前座は派手に、丸一仙翁社中の太神楽や手妻。 色紙は書かないよ、手形なら 押してやる。 ぜひ手前の倅を、お弟子に。 何人でもいい。 名前を? ヤ ッカイ。 手前の倅も? チョッカイ。 小さいな、シジミッカイ。 忙しく なる。 鉄拐も、すっかり贅沢になって、朝から中トロで一杯、昼は鰻。 寄 席を休んだりするから、評判が悪くなる。 テカテカの顔をして、プール付き の豪邸に住み、寄席を勤めないで、代演。 出ても、もう一人の鉄拐の顔の半 分しか出ない。

 鉄拐の向うを張ろうと、興行師が三人、山へ行く。 ヒョウタンをぶら下げ て、ふらふら歩いているのに会う。 張果老という仙人。 何をお吹きになる んで? 「瓢箪から駒」という仙術、瓢箪から馬を出す。 瓢箪をなでて、蓋 を取ると、霧とともに駿馬が出て、たてがみを翻し、その辺を駆け回る。 先 生、ぜひご一緒に。

 鉄拐はスケジュールがガラ空きになる。 地方でも回りますか。 胸に一物、 張果老の屋台に入り込むと、酒に酔って、瓢箪が放り出してある。 この瓢箪 からどうやったら馬が出るのかと、口に当てて吸いこんだから、中の馬は鉄拐 の腹の中へ。

 翌日の張果老の舞台は、馬が出せないので、病気休演。 先生、お前さんの 腹の中で、馬がヒヒーンと鳴くけれど、おやりになったんで。 鉄拐が、誘拐 犯になる。 実は馬を吐き出せないんだ、もう一人の鉄拐が、腹の中で馬に乗 って遊んでいる。 利兵衛さん、呑み込んでやるから、腹の中を見て来い。 見 て来ましたよ、曲馬を。 ハイレベルな見世物を、木戸銭取って、やりましょ う。 見物を、お腹の中に呑み込んで、15人なら団体割引。 11人で、あば ら骨がしなった。 あと10人は、あばらの好きな所へ、喉仏は天井桟敷だ。  呑み込んだ客の中で、酔っぱらった二人が、喧々諤々の喧嘩を始めた。 鉄拐 がたまらなくなって、吐き出した。 どこの野郎だ、この二人は? 李白と、 陶淵明だった。

柳家甚語楼の「ちりとてちん」前半2018/06/07 07:13

 お客様と、相対することがある。 当たり障りないことでなく、ワンランク 上の褒め方がある。 楽屋に訪ねて来る人もいる、たとえ手ぶらでも。 でも、 響くかというと、そうとは限らない。 お客様が思っているほど、緻密ではな い。 間が良かった……セリフ忘れてた。 表情が上手かった……くしゃみを こらえていた。

 お清、片してくれたか。 大分、余っています。 この温気だ、傷むといけ ない、お向うの金さんを呼んで来てくれないか、世辞もんだが、腹ン中はさっ ぱりしてる。 どーーも、ご無沙汰いたしております、ご壮健のようで何より です。 今朝、湯で会ってる。 失礼しました、このところ物忘れがひどくて。  実はね、碁の会をやるはずだったんだが、取りやめになってね、誂えた料理が どっさりある、手伝って食べてもらおうかと思ってね。 お料理をご馳走して 頂ける。 お清さんに、わざわざ来ていただいて、有難いことです。 お清、 お膳を。 取って置きのお酒、灘の生一本もある、やって下さい。 世の中に 灘の生一本というものがあることは聞いていたけれど、飲むのは初めて。 こ んな大きな湯呑で。 手酌でやります。 そうですか、恐れ入ります。 美味 しいお酒ですね。 お前さん、まだ飲んでいないよ。 これが灘の生一本、ス ーーッと入っていく。 普段飲んでるのは、何物でもない。 料理もどうぞ、 鯛のお刺身がある。 私、世の中に鯛のお刺身というものがあることは聞いて いたけれど、いただくのは初めて。 透き通るようで、キラキラしていますね、 わさびをつけて。 ウッ、ウーーン、わさびが利いて目に涙。 鰻の蒲焼はど うだ。 口に入れた途端、とろけるんですね。 食べるか、しゃべるか、どち らかにしておくれ。

 金さんが美味しそうに飲むんで、私もお付き合いしよう、お燗をしておくれ。  何か、つまむもの、豆腐の冷奴かなんかないか。 買って参ります。 ありま した、半月ばかり前、鼠入らずの奥にしまっておいたのが。 ちょいと、持っ て来てくれ。 駄目ですよ、黄色い毛がボーーッと生えてる。 うっちゃっち ゃいな。 清、待ちな! 箸と唐辛子を、いいから持って来ておくれ。 ブフ ッ、ブフッ、ブフッ! 金さん、妙な顔して見ているけれど、余興をご覧に入 れよう。 空の瓶に、これを詰めて、六さんを呼んで来てくれないか。 金さ ん、お前さんはお世辞がうまい、六さんはこれっぽっちも言ったことがない。  ご馳走をしても、お礼を言ったことがない。 よくないと思っていたんだよ。  その人が来たら、次の間に行ってくれないか。 一合上戸というやつで、もう 遠慮します。 おまんまでも食べていきますか。 おまんまというと、お米の 飯ですか、世の中、お米の飯というものがあることは聞いていたけれど…。 ま あまあ。

柳家甚語楼の「ちりとてちん」後半2018/06/08 07:12

 六さん、すまないね、忙しい所を。 家で仕事をしていたところで。 碁の 会に誂えた料理、手伝って食べてもらおうかと思ってね。 間が悪いね、今、 飯食ったばかりで。 駄目かい。 駄目ってことは、ないけれど。 詰めろっ て言われれば、食べられないことはない。 こっちもいける口だね、灘の生一 本をやって下さい。 どうせ本物じゃないでしょう。 方々で水をいれて、水 っぽい酒というより、酒っぽい水になる。 駄目かい。 駄目ってことはない、 それっきゃないんでしょう、ちょいとでいい。 ん、これなら、まあまあです ね。 鯛のお刺身はどうかね。 腐っても鯛ってね。 刺身はやっぱりマグロ ですよ、中トロにわさびを利かせてね。 鰻の蒲焼は? 嫌えじゃない、どう せ養殖もんだね、これは。 自然の中で育った、厚いのがいい。

 六さんは食通だから、私なんかが喜んでもらおうと思ったって無理だ。 そ うだ、食通の喜ぶものがウチにある。 舶来のもの、台湾の食べ物で、「ちりと てちん」、六さん知ってますか? ああ、あれね、知ってますよ、あっちにいる 時は、ちょいちょいやってました。 ウチにあるんで。 お清、さっきのあれ、 持って来て。 わかんないかね、ほら豆腐の……。 六さん、これなんだけど。  よく、これが手に入りましたね。 脇から頂いたんだけど、高い物だそうだね。  家が一軒買える、食べられれば一人前の食通。 旦那は知らないでしょうが、 これ粉末もある。 ふりかけにして、おまんまにかける。 粉末は、何て言う んだい? 「ちりとんてんちん」。 

お皿の方がいい。 空けてかまわないかい。 お前さんに来てもらってよか ったよ、私は苦手でね、臭いが駄目。 これは臭いで食う物で。 六さん、一 つやって下さい。 あっしが…、ハッハッハ。 アーア、アッ、ちりとてちん、 本当に高え、もったいないから頂いて、ウチへ持って帰って、毎晩楽しみに食 べる。 遠慮しないでいいんだよ、ひと瓶やっても、半月もすりゃあ、また手 に入るんだから。 六さん、脇で出された時に、恥をかくのがいやだ、食べ方 がわからない、教えてくれないか。 六さん、様子がおかしいね、もしかした ら食べ方を知らないんじゃないのかい? 馬鹿なことを言っちゃあいけません、 向こうじゃ朝昼晩とやっていた、大好物です。

アーッ、臭いが鼻とね、喉に来る。 いい出来だ。 食べる時は、箸、匙な し、鼻をつまんで、目もつむる。 皿の端から流し込むように、(口に入れ)ウ ーーッ、アッ、アッ、ヒーッ、ヒーッ、(と、真っ赤になる)ワッ、ワッ、(と、 戻しそうになり、のけぞって、ひっくりかえりそうになり、茶碗を差し出す)。  お酒かい、ハイ。 珍しい食べ方をするんだね、喉から入れたり出したりして。  

ウァーーッ、アーーッ、ガブ、ガブ、ガブ、アーーッ、旨かった。 どんな 味がするんだい? ちょうど、豆腐が腐ったような味。

橘家圓太郎の「五人廻し」前半2018/06/09 07:21

 大谷翔平君、メジャーで活躍する姿に打たれる。 もし、目の前にいたら、 握手してもらいたい。 けなげな姿がいい。 しかし、われわれのけなげな姿 は伝わらない。 それはお客様の、心の曇り。

 浅草演芸ホール、駐車場がいっぱいで、八百屋の前に停める。 一高座ぐら いどうぞ、というから、すまないね、と停めた。 忘れ物をして、楽屋に戻っ て数分、ミニパトの婦人警官が二人、110番通報があったという。 誰がかけ た。 八百屋の親父。 見ていた若者がいて、こんな時に、弟子入りしたいと 言う。 一生の問題、年は25、スーパーの魚類の部門にいた、包丁も持てる。  二人の婦人警官に土下座できない、私のキャパシティで、ならないタイプ、顔 の印刷がずれている。 「アーア」と大きな声を出したら、その青年が「やめ ます」って、いなくなった。

 それと同じ日に、羽生結弦君の仙台凱旋パレードがあった。 10万人以上の 人が見物に来て、羽生君が神対応で手を振っている。 腹が立つ。 藤井聡太 君も同じだけれど、ヌルッとした感じだ。 男を磨くのには、吉原が一番。 初 会の後、裏を返し、三度目に馴染となる。 夫婦になったよ、と言う。 腹を 立てるが、こらえる時は、こらえる。 それで、男を磨く。

 宵勘(よいかん)3円85銭取られて、背負(しょ)い投げをくった。 初会 が良かったんだ。 カカアに嘘ついて、来なけりゃあよかった。 今日来られ たのは、カカアのおかげだ。 仲見世で、腰巻一枚カカアに買った方が安かっ たな。 カカアは玉取らねえし、客は取らねえからなあ。 もう、よそう。 二 度と、この里には来ねえ。 たった一人の女を喜ばせねえで、どうする。 こ んな誓いを立てる場所じゃない。 落書きがある、「この楼(うち)は、牛と狐 の泣き別れ、モウ、コン、コン」。 寝ちゃあ、負けだ。 冗談じゃない、起き ていけず、寝ていけず。 グーーッ! いびきをかく真似が、だんだん上手く なって来た。 誰か、近付いて来るぞ。 よろしゅうございますか、開けます よ。 グーーッ! 待てよ、覗いて行くのは感じが悪い。 目を開けたまま、 いびきをかいちゃいけない法があるのか。 お一人様でございますよね、お寂 しゅうございましょ。 どこの馬の骨だかわからない方の、胸にすがって泣き たいほど寂しい。 今晩、ちょいと立て込みましてな。 立て込んでるのは、 客の俺が悪いのか。 もちろん、私どもの手落ちで。 俺は帰えるよ、玉代返 えしてもらおうか、3円85銭。 喜瀬川さん、まもなく、只今、すぐに、お廻 りになります、ご辛抱を。 蕎麦の出前じゃない、手前っちの「すぐ」は何時 なんだ。 もっと話のわかる人間に近いのを引っ張って来い。 私は、人間に 近くない? 手前えは出来のいい猿だ。 ここは寝ず番の私が引き受けており まして、ご用を受け賜わります。 廓には廓の法、廓法(かくほう)というも のがございまして、ほかの者は出せないことになっております。 何、廓法だ と…、三つの歳から大門を出たり入ったり、吉原のそれぞれの町や通り、また 故事来歴、元和3年3月3日、幕府が庄司甚右衛門の願い出を許可して、葺屋 町の葦の原から越してキチゲン、吉原となり、本来は新吉原と言わなきゃあな らねえことや、夫々のおでん屋のデエコンの煮方まで知っているんだ。 この コマ切れ野郎、つまり妓夫(ぎゅう)のクズ、塩を振って、頭から齧るぞ。 花 魁、ほどなく参りますので、御辛抱を。

 ご門前を通行の君、拙宅にもお寄りいただきたい。 もそっと、こちらに入 り給え、清め給え。 玉代を返せなど、野暮の極み、尊君は見事、角が取れて 丸い、特売品の角砂糖だ。 吉田兼好なども、傾城に罪(とが)なし、通う客 人に罪あり、寒からぬほどに見ておけ峰の雪、と申しておりやす。 お品があ って、相がいい、品相だ、貧相じゃない。 尊君にお尋ね致したい、登楼をし て一人がよろしいか、傍らに姫君がいた方が御愉快か。 もはや鶏鳴、尊君と 遊びます。 帯を解け、背中をこちらに、お向けなさい。 何も怖がることは ない。 文字を書くので、当ててもらいたい。 くすったがりでして…。 真 っ赤に焼けた火箸がある、これで一文字!

橘家圓太郎の「五人廻し」後半2018/06/10 07:22

 喜瀬川さんエ、喜瀬川さんエ。 小使! 小使ではないか、おい、貴様は何 だ。 二階を回しております。 大変なる筋力だな、黙れ逆賊、前へ進め。 ヘ イヘイ。 何歳にあいなる? 45歳で。 45にもなって、かかる巷で、こん にち男女同衾する夜具布団を運搬しておって、何が面白い。 尋ねたいことが ある。 ここに枕が二つある。 一つは僕、もう一つは何人が使用するものな るか、即答をぶて。 えー、もう一つは、可愛いあの妓さん…。 あの妓さん にも、この妓さんにも、三日月の宵からチラリとも見えんではないかッ。 こ こに受取がある、契約が違うではないか、僕の気持もわかってもらいたい。 妻 は長く患っておる。 ヘソクリをぼくのフトコロにねじ込んでくれた、その妻 の勧めで登楼しているのだよ。 妻の意が無になるではないか。 妻のことを 思うと、どうしても玉を返してもらいたい。 真の女郎買いとは何か、貴様に わかるか。 清い体では目的を達することができない。 ケツを貸せ! 冗談 じゃないよ。

 手の鳴る方へ、若け衆(し)さん、来てもらいたい。 喜助、オラだ。 宵 に喜瀬川が来たから、鮨を取ってやったら、パクパク食って、それっきりだ。  今日は忙しかったんだよ。 オラは真の江戸っ子だ、印旛沼の水で産湯をつか い、とことんやれだ。 ワレと遊ぼう、着物をするりと脱いで、ヘソを出せ。  煙管、刀豆(なたまめ)煙管、ワレのヘソにグイッと入れる。 鼻から、煙(け む)出せ。

 喜瀬川さんエ。 何でここにいるんです。 玉代返せって、大変な騒ぎにな ってますよ、お大尽の所を離れて、回って下さい。 玉代返して、帰ってもら っとくれ。 一円ずつで四円、すみませんね、お大尽。 末は、ヒーフになる んだから。 もう一円、頂きたい。 どうするんだ? お大尽に、帰ってもら う。