落語研究会600回、桂やまとの「武助馬」 ― 2018/07/01 07:19
6月25日、TBS落語研究会は、ついに記念すべき第600回、50周年を迎え た。 友人が定連席カードを忘れたので、それを伝えるついでに、運営事務局 長の廣中信行さんに、私は第1回から通っていると話した。 そういう人がい るんじゃないかと思ってはいたが、初めの頃のは手書きの記録しかないのだ、 と言う。 毎度書くが、ともかく、ずっと健康で、自由な時間のあったことに 感謝せねばなるまい。 第600回に相応しい、独演会の切符が取れないような 顏ぶれが揃った。
「武助馬」 桂 やまと
「かぼちゃ屋」 春風亭 一之輔
「居残り佐平次」 古今亭 志ん輔
仲入
「夏どろ」 柳家 三三
「妾馬」 柳亭 市馬
桂やまと、真打昇進一年前で桂才紫だった2013年3月28日の第537回に、 「武助馬」を演っていたのを、私は知っている。 落語研究会では、高座返し や笛を吹いてきたという。 電話があった、6月25日空いてるか、第600回 記念の会がある、但し、みんな真打なので最初に出てもらいたいのだが…。 も う一つ、先輩だけど、一之輔さんの前に出てくれるか。 開口一番でも落語研 究会に出られるだけで幸せ、落語が好きで好きでしょうがない定連のお客様と の一体感がある。
江戸は芝居が盛ん、役者になりたいと三年前に奉公を辞めた武助が、旦那の ところに挨拶に来る。 芸能のもと、上方で役者になった。 片岡仁左衛門の 弟子で、土左衛門、すぐに『菅原伝授手習鑑』の牛、『先代萩』の鼠、『和藤内』 の虎、『忠臣蔵』の猪をやった。 人の役は? 「用はない、次に下れ」と、言 われて、「ハ、ハア」と言う役。 上方の水が合わないってんで、江戸に戻って、 中村勘三郎の向うを張る中村堪袋の弟子になった。 頭陀袋はどうだといわれ たが、頭陀袋はどうもいただけない。 九蔵は空いてるが…、それよりはと本 名を選んで中村武助になった。
おとといから、隣町で小屋掛けして、『一谷嫩(いちのたにふたば)軍記』を かけている。 熊谷直実と平敦盛の一騎打ち。 直実か? 直実は親方の堪袋。 敦盛か? 敦盛は兄弟子、もっと下。 軍兵か? もっと下、張子の馬の脚。 前脚か? 後ろ脚をやっている、横棒につかまって、前脚について行けばいい。 観に行かなくっちゃあ、明日、明後日は用がある、明々後日(しあさって)は どうだ。 一座はあると思います。 差し入れ、何がいい、言ってごらん? 小 判。 それは駄目だ、何かするよ。
人のいい旦那で、いろんな人に声をかける。 酒、肴、弁当を誂え、小遣い も付けると言って、三十人を動員して総見、楽屋にも鰻弁当を差し入れる。 武 助の評判は鰻登り、日本一の馬の脚だ。
開演時間なのに、前脚の兄弟子がいない。 赤い顔して、出て行ったよ。 裏 で、日向ぼっこして、寝てる。 兄弟子、起きて下さい、池袋さん。 次は、 目白! 鰻弁当、ご馳走様、三人前食べた。 客は三十人の総見。 白い馬に 乗って、敦盛登場(「元禄花見踊り」の三味線が鳴る)。 袖に熊谷直実、馬上 の人、親方の堪袋が鰻弁当を五人前食って重くなったからたまらない。 三人 前食って酒を飲んだ前脚役の池袋、馬が虎になっちゃあいけない、下っ腹に力 を入れた。 プッ、プッ、と馬の中でオナラを二発。 臭い、臭い! 二発ぐ らいで驚くな、奥州には八戸がある。 熊谷直実、なりきっている。 客席で は、誰も観ていない、酒、肴、弁当にかかりっきり。 「待ってました、ウシ ロアシー、たっぷり!」「前脚に負けんな!」の声がかかって、武助はピョンピ ョン跳ねる。 堪袋の直実が、馬の首にしがみつく。 張子の馬の首がボキー ッと折れて、親方は頭から落馬、中から兄弟子の顔が出て、馬が丸顔になった。 見ろ、馬が挨拶しているよ。 慌てて幕を締めたのを、前の客が引っ張って、 幕が落ちた。 書割が倒れて、寄っかかっていた裏の家の塀も一緒に倒れた。 間の悪いことに、裏の家の庭でおかみさんが行水をつかっていた。 くるっと 振り返って、アレーッ、と立ち上がる。 「たっぷり!たっぷり!」「馬鹿野郎、 真面目にやれーッ」。 当たりに当たったのかと、馬の腹から顔を出した武助「ヒ ヒーン」と鳴いた。 「何で後ろ脚が鳴くんだ」とつっこまれ、「いいんです、 さっきは前脚がオナラをしましたから」
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