春風亭一之輔の「かぼちゃ屋」2018/07/02 07:07

 紫の羽織に、枯草色の着物の一之輔、ホール落語だと、ジェツト機や光進丸 が買えるほど莫大なものを頂ける。 学校公演だと、そうはいかない、今日も やって来た。 与太郎は、忖度しない人。 カトリックの学校、真後ろに十字 架があり、キリスト様が苦しそうな顔をしている。 アーーア、と言ったら、 先生が外しますか。 駄目ですね。 死体ですもんね、やりにくいですか。 思 ったことを、口からパッと言っちゃう。 ウチのガキ、ウルトラマンの人形が 欲しいと、4年生。 三月ほど、ぐらついている乳歯が抜けたらな。 自分で、 パッと抜く、血が出ている。 落語研究会600回、1000回まであと33年かか る、今40歳、73歳でトリが取れればいい。 この状態が与太郎、意に介しな い。

 与太郎、何か用か。 呼ばれたから来た。 ハタチにもなって、ぶらぶらし ていて。 それは、あなたの主観だ。 お袋が来て、こぼしていた、泣いてた ぞ。 目が悪いのかな、あたいは女を泣かしたか。 お袋だよ。 この道ばか りは……。 色気違いか。 おじさんの商売は八百屋だ、死んだお前の父さん もいい八百屋だった。 物を売って来い。 その色気に満ち満ちた、腰巻かな んか、売るのか。 かぼちゃを、売ってこい。 色っぽくないな。 ザル二つ、 大が10、小が10、20入ってる。 大が13銭、小が12銭、上を見て売れ。 い と易きことだ。 日陰を選って、裏通りを行きな。 売り声は、大きな声で、 はっきりと。 半纏、腹掛け、股引だ、財布を首から下げ、腹掛けのどんぶり にねじ込め。 軽いや。 テンビン棒だけ、かつぐな。 ハタチ、若いんだ、 腰でかつげ。 腰を切るんだ。 何で台所へ行くんだ。 庖丁を取りに行く、 切るんだろ。 客に何を言われても、逆らうな。

 重いな。 日本は豊かだっていうけど嘘だ、いまだにこんなもん食う奴がい る。 作る奴と買う奴がいて、間の悪いのは、間に入って売らなきゃならない 奴だ。 売れないな。 何も言わないからか。 おじさんは教えなかったな、 おじさんがあそこどまりの由縁か。 かぼちゃか、かぼちゃ、かぼちゃ、かぼ ちゃ! みんな、あたいを遠巻きに見てる。 歩きやすい。 かぼちゃ! 子 供が泣いてる。 おじさん、かぼちゃ! 唐茄子だろ、唐茄子屋でござい、っ て言うんだ。 唐茄子屋でござい! 売れないよ。 そうすぐには売れないよ、 調子よく、高い調子で歌うような調子で。 おじさん、買ってくれよ。 湯へ 行くんだ。 持ってけ、湯にヘチマ持って行く人がいるじゃないか。

 唐茄子屋でござい! 温かい唐茄子! 出来立ての唐茄子! 狭い路地だな、 行き止まりで、前が蔵だ。 曲がれなくなっちゃった。 弁当持って来てない、 死んじゃうよ。 蔵、どかせ! 助けて! 何を騒いでいるんだ、例えば、荷 を下ろして、お前が回ったらどうだ。 回った。 格子がキズだらけだ、張り 倒すぞ。 平気だ、好きなだけやれ。 勘弁してやる、きれいな目をしている な。 かぼちゃ、新しいのか? 河岸でピチピチ跳ねていた、取れたてだ。 ど このだ。 本場はペルーだ。 いくらだ。 大きいのは13銭、小さいのが12 銭。 安いな、二つずつくれ、はい50銭。 源ちゃん、かぼちゃ、買ってや れ。 大きいのは13銭、小さいのは12銭。 親方、ここ頼むよ。 長い物に は巻かれろって、いうからな。 (与太郎は、手を広げて、空を見ている。) 大 きいのは13銭、小さいのは12銭。 はい、持ってけ。 上を見てると、アー ーア、暑い。 何で俺が売るんだ、俺も出過ぎたことをするなあ。 みんな売 れた、お足、持ってけ。 真面目にやっていると、いいことがあるよ。 あり がとうぐらい言え。 どういたしまして。

 おじさん。 もう帰ったのか。 売り切れました。 婆さん、与太郎が初商 いで、荷を空にしたよ。 売り溜めを出せ。 お前、偉いな、ちゃんと、元と 儲けを別にしてきたな。 これは元だ、上を見たんだろ、見たのを出せ。 (目 をパチパチ、ショボショボさせる) ずっと上を見てた、抜けるような青空、 かなたには入道雲、燕がくるりと輪を描いた、そんな昼下がり、与太郎。 み つを、みたいだな。 上を見るってのは、12銭を14銭、13銭を15銭と掛け 値するんだ、2銭ずつ儲ける、そうじゃないと女房子が養えない。 お前は何 で飯を食うんだ。 箸と茶碗で、インド人は手で食う。 婆さん、何を笑って んだ。 ハタチになりやがって、それだ。 こんなハタチに誰がした。 おば さんには、評判がいい。 もう一度、行って来い。

 この路地だ、傷だらけの格子がある。 唐茄子屋でござい! また、来たの か。 忘れないよ。 おじさんに掛け値しろって言われた、2銭ずつ儲けなき ゃいけなかった、知らないで買う奴は馬鹿だ。 読めてきたぞ、お前、おめで たいんだ、歳はいくつだ。 今年、還暦だ。 60ってことは、ないだろう。 元 は20で、40は掛け値、掛け値しないと女房子が養えない。