三遊亭兼好の「あくび指南」前半2018/07/26 07:09

 兼好も猛暑について、命がけで聞きに来るほどのものではない、われわれも 命がけで演ってはいない、と。 <来て見れば森には森の暑さかな> 江戸の 頃、暑いと働かない、昼間ぶらぶらしているので、習い事でもしようか、とな る。 蚊弟子というのがある。 夏場、蚊が出る頃に入門して、蚊がいなくな る頃、やめる(と、羽織を脱ぐ)。 習い事をして、終いにはそれで身を立てよ うなんてのは、いない。 いろんな指南所がある。 喧嘩指南所、しゃれ指南 所。 しゃれを教えるんで、やってみて下さい。 猫と、おまんまで。 「猫 にご飯」。 よく出来ましたが、もうひとひねり。 鳥籠だけ。 はい。 「取 柄がない」。 ひねりが利いていますね。 むさい絵で、ごみ箱の蓋を子供が開 けようとしている、8歳の子。 「明ければ9歳(くさい)」。 バカバカしい。

 釣り指南所。 二階へ。 釣りなら、川、池、沼でしょう。 二階に上がっ て、窓から顔出して、釣竿の糸を垂らして。 私が、下で引っ張りますから、 その引き具合で、どんな魚の当りか、覚えて下さい。 これが? 鯊。 気持 の悪いのが? 鰻。 力なく、引っ張りもしない? 土座衛門。

 往来で会えてよかった、習い事をしようと思うんだが、お前についてきても らいたくてね。 端唄、小唄なら、やったじゃないか。 小唄なんか、♪ハァ、 と一言で、お止めになったほうがいい、長年の経験でわかる、ほかの方々が皆、 調子外れになる、と。 また踊りかい、よした方がいい。 おさらい会で、か っぽれ、トントントンと前へ出るところで、お前だけ後ろへ行った。 みんな が後ろに行ったら、お前だけ前に出て、舞台から落っこった。 生薬屋の婆さ んが一番前で、お握りを食おうとしていて、ノドに詰まらせて、大騒ぎになっ た。 今度は、何をやろうってんだ? あくびだ。 あくびなんかを、教える 所があるのか。 お足を取って、教えようってんだから、色っぽいことになる、 女の師匠が女が惚れるようなあくびを教えてくれるんだろう。 お湯屋と、一 杯おごるから。

 あくび指南所。 はい、どうぞ。 男だ。 そちらの方も…、お連れさんで すか? お連れさん……、言いがかりだ、見てるだけ。 煙草盆がありますか ら、ごゆるりと。

 ご町内の方で、手拭でも持ってご挨拶に伺うところなんですが。 お下地は ございますか。 親類が野田にいて。 あくびは習ったことがない。 初心者 ですね、下手に習っていないほうがいい。 どのようなあくびをご所望で。 い ろいろあるんで? ただのあくびは、駄あくびで、実りのあるあくびがある。  春夏秋冬、四季のあくび、三回忌のあくび、十三回忌のあくび、寄席のあくび、 床屋のあくび、お湯屋のあくび……。

 お湯屋のあくびを。 うなり声から、都々逸になり、あくびを念仏でかみ殺 す。 難しそうだ。 一つ、やってみましょう。 「暮しのあくび」より、「お湯屋のあくび」。 熱いお湯に、胸のあたりまでつかる気持になる。 手拭を頭に、 ウーーッ、ウーーッ、ウーーッ、たまたま逢うのにーーィ、東が白むーーッ、 日の出に、日延べがーーッしてみたーーィ、アァーー南無阿弥陀、ここまで!  あっしには、難しい。 「寄席のあくび」。 演者が面白くない。 客は、つい、 あくびになる。 演者と、目が合う。

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