入船亭扇辰の「夢の酒」後半2018/07/29 08:27

 何だ、奥で大声を出して、奉公人に示しが付かないじゃないか。 えっ、倅 の不行跡は、親の責任だ、話してごらん。 お花、泣くとか、しゃべるとか、 どっちかにしなさい。 酒を飲んだのか、飲みつけないものを飲むからだ。 ご 新造とねえ。 お花の言う通りだ、助平、お花が泣いて、親父が怒っているの に、お前は何が可笑しい。 はなから終いまで、夢の話なんです。 お花、そ うなのか。 はい、夢でございます。 夢の話なら、いいじゃないか。 いい え、いつもそんなことを考えているから、そういう夢を見るんです。

 どうしてお前は、そんな手数のかかる夢を見るんだ。 お前は店へ行ってい なさい、お花に話をするから。 お花、お父っつあんに免じて、勘弁してやっ てくれよ。 お父っつあん、お願いがあります。 向島のお宅に行って、その ご新造に、若旦那にそういうふしだらなことはなさらないように意見をしてき て頂きたい。 だって、お花、夢の話だよ。 淡島様の上の句を詠みあげて寝 れば、人の夢の中に入れると申しますから。 じゃあ、今晩寝る時にお願いし てみましょう。 どうして泣くの、お花、店の方で聞けば、私が泣かしている ようじゃないか。 今、寝ますよ。 いいよ、蒲団なんか。 老いては子に従 え、というからな。 どうか淡島大明神様、倅の夢のところへ。 (「われ頼む  人の頼みの なごめずば」/「世に淡島の 神といはれじ」) グーーッ!

 ご新造さーーん、大黒屋の大旦那様がいらっしゃいましたよ。 先ほどは、 倅がお邪魔して、ご厄介になりましたそうで。 どうぞ、こちらへ。 けっこ うなお住まいだ、庭がいいね。 紅白のさるすべり、吊り忍、風流だな。 お 竹、お茶じゃなくて、お酒を。 三度の御飯より、お好きだそうだから。 一 杯、召し上がって行って下さい。 では、折角ですから、一杯だけ。 あら、 そうなの、すぐに火を熾しなさい。 酒は燗と決めてまして、待ちますから。  冷やはいけない、以前飲み過ぎて、大しくじりをしたことがある。 あの、お 燗はまだでしょうか。 ちょっとお待ちを、すぐですから。 お燗はまだでし ょうか。 ちょっとお待ちを。 こうなったら、冷やで、大丈夫ですから。

 お父っつあん、お父っつあん、起きて下さい。 あなた……、お花か。 不 思議なことがあるものだ、惜しいことをしたよ。 お叱言の最中でしたか。 い や、冷やでも、飲めばよかった。

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