春風亭一朝の「藪入り」前半2018/08/01 07:11

 トリの一朝は、黒紋付の羽織と着物で、今日もイッチョウケンメイやります のでよろしく。 世の中の仕組みが変わっても、変わらないものがある。 < かくばかり偽り多き世の中に、子の可愛さは真(まこと)なりけり>。 今は、 物心がつくと塾に通ったりするが、昔はそんなことはなかった。 商家や、大 工や左官の親方に奉公した。 今は週休二日制だが、奉公は住み込みで、休み は年二回制、一月十六日と七月十六日、「藪入り」と言った。 里心がつくから というので、三年ぐらいは「藪入り」無し。 三年経ってようやく、宿下(や どり)といって、家に帰れる。 八つから十のお子さんだから、前の晩から眠 れない。

 親の方は、輪をかけて眠れない。 <藪入りや何も言わずに泣き笑い>。 お っかあ、野郎、よく辛抱したな、俺のガキだけのことはある。 お前さんは、 いいことはみんな、自分にそっくりで、悪いことは私に似ているって、言う。  よく辛抱したな、あったかいおまんま炊いてやれ。 何時になったよ? 十二 時をちょっと回ったところ、早くお寝なさいよ。 納豆好きだから、辛子を入 れて、マグロの中トロ二人前、俺もお相伴するから。 肉も好きだ、皮つき軍 鶏、モツまみれで煮てやれ。 寿司、天ぷら、鰻の中串も二人前、玉子焼きも 焼いてやれ。 きんつばと大福も、腹いっぱい食わせてやれ。 なあ、おっか あ、何時になったよ? 二時をちょっと回ったところ。 湯へ連れて行ってや ろうか。 磨いて、ほうぼうへ連れて行く。 岩田の爺さん、婆さん、喜ぶよ、 本所の先生、浅草の観音様、湯島の片岡さん(一朝夫人は、五代目片岡市蔵の 娘)、品川の海も見せたい、羽田の穴守様、川崎大師、鎌倉の大仏、三保の松原 で富士を見て、名古屋、伊勢の大神宮様、京大阪も回って、金毘羅さんから九 州の桜島まで行こう。 明日一日で、そんなに回れないよ、早くお寝なさい。  あいつも寝られねえよ、付き合いで、二人でお通夜しよう。 何時だ? 三時 回った。 まだ夜が明けないか、昨日は今頃夜が明けたのに…。

 何時になった? 五時ちょいと前。 今から起きて、どうするの、電車も動 いてないよ。 おまんま、炊け。 冷えちゃうよ。 冷えても、温ったかく食 わせるんだ。 箒はどこだ?

 吉っつあん、見ろよ、熊の奴が表を掃いている。 今日は十六日、藪入りだ、 亀ちゃんて言ったかな、帰って来るんだ。 人の親だな、あいつも。 亀ちゃ ん、大きくなったでしょうね。 小さくなったら、なくなっちゃうよ。 よか ったら家にも寄越して下さいよ。 当人が何て言うか。

 遅いな、あの番頭が意地悪して、なかなか帰さないんだ、三十分もしたら、 行って番頭を張り倒してやるか。 あの子は、一番下なんだから、遅くなるん だよ。 はい、はい…、帰って来たよ。 お前さん、出ておくれ、おまんま、 噴いているんだ。 ヘイ、どうも。 おはようございます、只今、帰りました。  ご無沙汰をいたしております。 お父っつあんも、おっ母さんも、お元気で何 よりです。 ご主人様は、くれぐれもよろしくと申しておりました。 おひけ えなすって! お父っつあん、具合が悪かったんだってねえ、吉兵衛さんに聞 いて、あたいの書いた手紙、読んでくれた。 お前さん、何か言ってやったら、 どうなんだい。 ノドが詰まって、声が出ねえんだよ。 ご親切なご挨拶で、 本日は遠方のところを、どうも。

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