物価の実感と実態の大きなずれ2018/08/10 07:16

 白井さゆり教授の講演は、(2)家計の実感とデフレマインド、に進む。 な ぜ人手不足なのに賃金が上がらないのか。 一つには、現在の人手不足を補っ ているのがシニア層で、退職後の再雇用として、短時間・低賃金のケースが多 い。 専業主婦がパートに出た場合も同じだ。 雇用が増えている業種が医療・ 福祉関係で、制度的に賃金引上げが難しいという事情もある。 業績の良い企 業でも、先行きが楽観できない状況では、増益分をただちに賃金へ還元するこ とに慎重にならざるをえないという面もある。

 世帯収入の実態と将来期待。 世帯収入は、2000年に比べると、かなり低い 水準にある。 2012年以降に世帯の可処分所得が増加している最大の理由は、 配偶者が働いて、収入が増えたことにある。 そのほとんどが、預金に回り、 消費の増加に結びついていないのが現状。 「一年後に世帯収入が増えるだろ う」と予想する人の割合は、2012年からほぼ横ばいで、10%にも満たない。  企業収益は好調だが、家計の実感は違っているのだ。

 消費者物価の上昇率を確認しておこう。 そもそも日銀がこれだけの金融緩 和を行った理由は、上昇率2%の物価安定目標を実現するためだった。 2014 年に約2%上がったのだが、これは消費税率を5%から8%に引き上げた影響だ。  それを除けば、2012年から2017年にかけてのインフレ率は0.5%程度。 金 融緩和は物価の大幅な上昇をもたらさなかったのだ。

 ところが家計に過去一年間の物価感を尋ねると、常に上がったと答えている。  実際の統計データではインフレ率がマイナスになっている時でも、そうだ。 さ らに金融政策で重要な、家計が将来をどう予測するかの調査では、今後5年間 のインフレ予想が平均値で4%という高い数値なのだ。 人々は、日銀が金融 緩和をしようとしまいと、今後この国で高いインフレが発生すると予想してい る。 欧州、アメリカ、豪州を見ても、このようなことはない。 日本では、 家計の物価感が金融政策の影響を受けていないということだ。

 どうして物価の実態と家計の実感にこれほどの乖離が生まれるのか。 細か く調べてみると、2003年から日用品の価格が上がり、円安もあって食料価格や 石油価格が高いときもあった。 保険料も上がっている。 手取りが増えたよ うに感じられず、家計は苦しいと思っているので、物価が高いと答えているよ うだ。 加えて、高齢化や社会保障費負担など将来不安(年金・医療・介護) があるので、統計データ以上に高いと感じてしまうのだ。

 先々モノの値段が下がると予想して、安くなるまで待つのがデフレマインド だが、家計調査ではそのために買い控えをしている証拠はない。 デフレマイ ンドがデフレの原因ではない。 ではデフレが続いているのはなぜか。 白井 さんは、家計のインフレ予想こそが消費の抑制を生み出しているのではないか と、考えている。 家計は生活が苦しい、物価は上がってきたし、今後も上が ると思っている。 それでちょっとした値上げにも敏感に反応する。 家計が 物価の上昇を受け入れなければ、企業もコストカットに努めて価格を据え置く しかない。 これがデフレの真実だと思う。 教科書風に考える、需要が減っ てモノの値段が下がり、それが消費者のデフレマインドを生み出して買い控え が起こり、ますます需要が減る、需要不足がデフレの原因ではないのだ。 日 本の現実は全く違うのだ。 そのことを認めて、今後の金融政策を考えるべき だ。

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