赤松小三郎「口上書」と『西洋事情』初編2018/09/15 07:18

 平山洋さんは『「福沢諭吉」とは誰か』(ミネルヴァ書房)で、赤松小三郎の 「口上書」の直接のモデルはその7か月前、前年の慶應2年10月に刊行され た福沢諭吉著『西洋事情』初編中のアメリカ合衆国憲法と英国政治の部だと推 測している。 赤松小三郎は優秀な西洋軍事学者で、京都で徳川慶喜の補佐官 をしていた西周とも交友があって、西洋の政治システムについての知識も豊富 といえたけれど、「口上書」の建白を独力で執筆できたかといえば、そこまでの 能力はなかったと思われる。 これほど体系性を備えた、いわば私擬憲法のさ きがけともいうべき文書を書くには、そのモデルになる何かが必要だったと考 えるからだ。

 昨日見たような「口上書」の内容は、身分にとらわれない民主的な普通選挙 による議会政治を提言した文書として、おそらく日本最初のものであろう、と する。 『西洋事情』初編は、アメリカの二院制議会を説明している。 「口 上書」の、議会の決議事項に対しては、天皇ですら拒否できないとされている のは、米国議会と大統領の関係に由来していると思われる。 「口上書」は、 天皇を世襲制の大統領とみなしているのである。 「口上書」の国家機構の説 明は、イギリスの体制からの影響が顕著だ。 『西洋事情』初編は、イギリス の立憲君主制を説明している。 二院制議会と立憲君主制以外にも、「口上書」 にある大学と教育の機会均等、税負担の平等についても、『西洋事情』にはそれ ぞれアメリカとイギリスの例が具体的詳細に紹介されている。

 一例を挙げれば、「口上書」で「遊民多くして農而巳(のみ)多く労し、他の 諸民は運上(税金)少なく候へば、第一百姓の年貢掛り米を減じ、士、工、商、 僧、山伏、社人之類まで、諸民諸物に運上を賦し…」という個所などは、『西洋 事情』でイギリスでの納税の実際が税金の種類と納税方法など、実に細かく説 明され、日本と異なり西洋では一般に農民の租税負担が軽減されているという 印象を与えているのに、影響を受けているのではないか、とみているのだ。

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