詩人の家『LOCUS AMOENUS』の謎2018/09/21 07:17

 樹木希林さんの「百点対談」が載っていた『銀座百点』9月号だが、グラビ アが『LOCUS AMOENUS』と題する、謎の洋風の庭の写真であった。 シャ ンデリアをバックにした金字の題名の下に、同じ金字でMutuo Takahashi、 Hajime Sawatari、Jun Hanzawaの三人の名がある。 どこのどういう庭なの か、銀座とは関係があるのか? 初めの丸く刈り込んだ木に日の当っている写 真の、ごく短い説明に、「LOCUS AMOENUS(ロクス アモエヌス)……心地 よい場所をいうラテン語、古来ヨーロッパの文人たちは学芸の生まれる理想の 環境をそう呼んできた。心地よい場所はまず庭づくりから、三十数年前、ささ やかな土地を手に入れたとき、まず考えたのは植物たちによる癒しだった。」と ある。

 チューリップの咲いている写真には、「植物は四季折々に美しい花を咲かせて くれる。春の主役はチューリップ。年によっては、千七百球以上の球根を植え る。」 幾何学的な西洋風の庭、白塗りのお洒落な金属製のベンチに毛布が置か れ、ブリキのジョウロがいくつか見える写真には、「緑と花々に見る夢。夢を健 やかに哺(はぐく)みつづけるには、草抜き、虫取り、水遣り、剪定などの日々 の手入れがかかせない。」

 豪華なシャンデリアが低い位置に下がり、六人掛けのテーブルと丸テーブル、 開けた窓のまとめられたカーテンの間から、明るい庭が見える。 「室内には 庭の、そして庭につづく小山からの風と光とを豊かに入れて。もちろん詩想を 醸す場である頭と心の中にも。」 テーブルに飾られた白い陶器に活けられてい るのは白いバラ、「年の終わりの室内こそ暖かく華やかに。クリスマスツリーを 飾りヤドリギやバラを活け、スパイス入りワインを備えて。」

 どこの誰の家の庭なのか、目次にも、巻末の「編集夜話」を見ても、説明が ない。 謎である。 多くの読者は、そのまま過ぎてしまうのではないか。

 私は『銀座百点』を手にすると、高橋睦郎選の「銀座俳句」を覗く。 選評 の初めに、こうあった。 「わが詩文の生まれる場である茅屋と荒庭を五十年 来の友人である写真家沢渡朔が十年かけて撮ってくれた写真集『LOCUS AMOENUS(ロクス アモエヌス)』が、近く平凡社から上梓されます。中のご く一部ですが、本誌編集部のご好意で本号のグラビア頁に紹介していただきま した。おたのしみくださいましたら、倖せです。」

 平凡社のサイトを見ると、写真集は11月16日発売だそうで、『ロクス アモ エヌス 詩人の家』、「選りすぐりのアンティーク調度と半澤潤の手仕事の賜物た る洋館。家が詩人の終の住処になるまでの長歳月を沢渡朔の写真が記録。栞は 谷川俊太郎。」

 高橋睦郎さんは、『夏潮』の本井英主宰とご近所で親しく、新年会や十周年ク ルーズにおいで下さり、主宰宅での宴に同席させて頂いたこともある。 こう いうお宅に、お住まいだったのか。