高橋睦郎さん「“花”をひろう」の「彼岸花」2018/09/22 07:11

『夏潮』が創刊した翌年の2008(平成20)年11月からだったか、高橋睦郎 さんが朝日新聞の別刷カラーページに、長く(2013(平成25)年3月まで)「“花” をひろう」「“季”をひろう」という連載をなさった。 植物について、また古 今東西の詩文について、何ともお詳しいのに恐れ入ったものだった。 植物に ついては、その背景に「LOCUS AMOENUS(ロクス アモエヌス)」詩人の庭 があったのかと、改めて知った次第。

たとえば季節の「彼岸花」、「“花”をひろう」2010年9月11日、青空の白 い雲をバックに、真っ赤な彼岸花が咲いている(写真は、井上博道さん)。 白 秋の第二詩集『思ひ出』の一篇「曼殊沙華」。

GONSHAN. GONSHAN.何処へゆく、

赤い、御墓の曼殊沙華(ひがんばな)

曼殊沙華、

けふも手折に来たわいな。

GONSHAN. GONSHAN.何本か、

地には七本、血のやうに、

血のやうに、

ちやうど、あの児の年の数。

 「俗称ひがんばなの由来は秋彼岸の頃、墓地などのある村はずれの荒地や河 原などに咲くからか。もっとも、最近の温暖化のせいか、筆者の住む逗子あた りでは、七月末から咲いている。」とある。

 歳時記で「彼岸」とのみいえば春期。 秋期は「秋彼岸」という。 高橋睦 郎さんは、「秋のほうが彼岸にふさわしく思われるのは、彼岸花のせいもある か。」と。

 「白秋の詩の中のGONSHANは、いまでいう未婚の母か。七つ(いまなら 五歳)まで育てた愛児を亡くし、つい墓地に足が向くのだろうか。またの名を 死人花(しびとばな)、幽霊花、三昧花(さんまいばな)とも。」

 おわりに三句が引いてある。

むらがりていよ\/寂しひがんばな     日野草城

彼岸花咲く藪川のうす濁り         内藤吐天(とてん)

彼岸花鎮守の森の昏(くら)きより     中川宋淵(そうえん)