入船亭扇蔵の「厩火事」2018/10/02 07:25

 扇蔵、扇遊の弟子、眉が濃い、草色の着物に、茶の羽織。 落語研究会の前 座は、緊張したという。 (囃子が鳴らない内に)無言でめくり、座布団を返 す。 客席の緊迫感も伝わり、袖で小三治師匠が何か言うのが聞こえる(と、 羽織を脱ぐ)。 前座にはルールがある、座布団は縫目のない方を客席に向ける、 縁の切れ目のないように。 私は、そう思う。 けれど、(客席を見て)そうは 見えない。 変わったのが、北海道と九州が結ばれたりする夫婦の縁。 祖父 母の頃は、お見合い結婚、その昔は許嫁(いいなずけ)が幼い時に決まってい たりした、さらに昔は旧暦の十月十日、出雲に神様が集まって決めた神在祭、 神在月、出雲以外は神無月、神社にお参りに行く時は確認して行った方がいい。  19歳の提灯屋の娘がいるんだが、22歳の蝋燭屋の倅と結びましょう。 三本 余ったけど、結んじゃいましょう。 これが三角関係になる。

 お崎さん、また夫婦喧嘩か、喧嘩っていうと家に来る。 夜なべの仕事が二 つあって、夕飯をあの人に言いつけた。 その言い方がいけない、髪結でお前 が稼いでいるからって。 姉弟子が指を怪我して、代わりに伺ったお店で、お かみさんと、芝居見物に行くお嬢さんの、これが癖っ毛で口やかましい。 晩 くなりましたって帰った。 どこで遊んでるんだ、夜しか一緒に食えないから 待っていたんだ。 遊んでないよ、誰の稼ぎで暮してるんだ。 おかめ! ひ ょっとこ! 般若! 外道! と、喧嘩になった、今日という今日は、別れさ せて頂こうと思って。

 お前の亭主はかばえない。 こないだ、前を通った。 上がったら、お膳を 片付けたんだが、お刺身と、酒が一本。 これが気に入らない、お前が仕事に 出ているんだ、飲むなら、お前が帰ってから、二人で飲んだらいいじゃないか。  それを昼日中から飲んでいて。 お別れ、お別れ、別れなさい。 何も家の人 を悪くいうことはないじゃないですか、刺身の一人前に酒の一本ぐらい。 あ たしの方が七つ上で、患ったりして、若い女を引っ張り込んでも、こっちは歯 が抜けて土手ばかりになって、噛みついても、土手じゃあ噛めやしない。 共 白髪まで添い遂げてくれるのか、八年添っても、その料簡がわからないのが、 心配で。

 お崎さん、モロコシの孔子を知ってるか。 大好き、香ばしいのが。 トウ モロコシじゃない。 孔子という学者。 役者? 幸四郎の弟子か何か。 学者 だよ、郡部に住んで都に通う、二頭の馬を飼っていて、特に白馬を愛した。 家 の人も好きです。 ドブロクじゃない。 ところが留守に火事になった、名馬 ほど火を恐れる。 厩から引き出そうとしたが、駄目だった。 孔子が帰って、 家来一同、怪我はなかったか? それはよかった。 馬のことは、一言も言わ なかった。 一事が万事、家来たちは、こういう主のためなら、命を投げ打っ ても、と思った。 

 一方、麹町にさる旦那がいた。 面白いのね、猿が旦那なんですか。 名前 を言えないから、さる旦那、瀬戸物に凝っている。 家の人と同じ、2円80銭 でヒビの入った皿を買ってきた。 そんなんじゃない、一枚で何千円、何万円 という皿だ。 そんな大きな皿があるんですか。 珍客がお見えになって、そ れを出した。 犬のお客ですか。 珍客、珍しい客だ。 のべつ来るのは、ワ ン客。 奥様が皿を持って、階段を二階から下まで、ダダダダダと落ちた。 旦 那が、皿は大丈夫か、皿は大丈夫か、皿は大丈夫か…、と三十六ぺん言った。  気を付けてくれなければ困る。 翌朝、奥様はいなくなった。 実家から、ご 離縁を、と言って来た。

 凝っていると、他は目に入らなくなる。 亭主が一番大切にしている瀬戸物 を割ってごらん。 私の身体を聞いてくれると思うんですが、モロコシか、麹 町のさるか。 試してごらん。 まず詫びて、台所の揚げ板をずらして。 試 すことはよくないが、一生のことだ、やってごらん。

 ただいま、お前さん。 遅いな、飯の支度をして待っていた、晩ぐらい一緒 に食いたいじゃないか。 お前さん、モロコシだね。 何を言ってるんだ、駄 目だ、その戸棚は。 アッ、駄目だ、その皿は。 ほらみろ、言わんこっちゃ ない、手に入らねえ皿、割ったじゃないか。 大丈夫か、指でも怪我でもした んじゃないか? 聞いてんだよ。 引っくり返って、泣いてんじゃないよ。 エ ーーーッ、よかった、よかった、よかった、お前さんが麹町のサルだったら、 どうしようかと思った。 モロコシだったよ。 何言ってるんだ、怪我はない か。 お前さん、私の身体を気遣ってくれたんだね。 当り前だよ、お前に怪 我でもされてみろ、明日から遊んでて、酒が飲めねえ。

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