瀧川鯉昇の「へっつい幽霊」後半2018/10/06 07:08

 熊さんと若旦那、二人でへっついを担いで来たが、そんなことをしたことが ない若旦那、路地で蹴つまづいて、へっついの角が欠けて、コロコロと白いも のが出た。 出た、幽霊の塊、幽霊の卵か。 ちょうど若旦那の家の前だ、置 かせてくれ。 出たものを、出刃で差すと、十円金貨が三十枚、三百両。 わ かってれば、一人で引きずってくるんだった。 あなたの取り分、百五十両。  久し振りに吉原へ行ける。 あっしも一晩遊べる、三倍五倍にふくらませるん だ。 五十銭は? こまかいね。 気を付けて、行ってらっしゃい。

 若旦那は、どういう遊びをしたものか、一晩で百五十円と五十銭使って来た。  熊さんも、一晩できれいに取られた。 若旦那に借りよう、えっ、ゆんべで使 い切ったんで…、勘当になるわけだ。 もし幽太が出たら、あっしの方で引き 受けますから。

 若旦那が寝ていると、二時頃、痩せこけた男が出てきて、金返せ。 でっか い声で、熊さんを起こす。 熊さん、嘘ばっかり。 若旦那はあっしの所で寝 てくれ。

 熊さん、どこへ行ってきた? あなたのお父っつあんに会いました、すげえ 家だな。 銀ちゃんが、幽霊のお金を使って吉原で遊んだんで、取り殺される って話したら、十円金貨で三百円出してくれた。 ある所にはあるもんだ。 今 晩、幽霊が出たら、つっ返してやれ。 熊さんが、返して下さい。

 熊さんの家にへっついを置いて、明るい内から、出て来い、出て来い、と言 っていたら、二時に出た。 熊さんの勢いに押されて、後ろで、幽霊、考え込 んじゃった。 お待ちどう様。 天丼、誂えてんじゃない。 話がある、聞い て下さい。 私は左官の長五郎、夜な夜な、丁半が大好き、長五郎だから丁の 目にしか張らない。 大当りした三百円と少し、親類まで訪ねて来るんで、へ っついの角の所に塗り込んだ。 その晩、フグで一杯やって、中(あた)っち ゃった。 当る時は、当る。 地獄の沙汰も金次第、へっついの金を出しても らおうと、出るんだけれど、みんな陰火で目を回す。 大将は偉い人だねえ。  三百円そっくり持って行こうってわけじゃないだろう、こっちにもいくらか。  はじこうとしてるんですか。 スパッと半分にしようじゃないか、文句がある なら、出る所に出て。 私は出るところへ、出られない。 半分もらっていい か。 折角のお前の気持だ。 閻魔も、百五十じゃ半端だって、言いかねない よな。 サイコロでおっつけっこすることにしよう。 やらせてもらいましょ う。 妙な手つきだな。 上に向けると、幽霊仲間を弾かれる。 夜が明けて も弾かれる。 百五十円全部、丁と張る。 度胸がいいな、俺は半に百五十円。  これで、ぐうの音も出まい。

 五六の半。 あーあ、ドスン。 幽霊ががっかりしたの、初めて見た。 大 将、もう一勝負。 よそうじゃないか、お前の方に金がないのは、わかってい るんだ。 いいえ、あたしも幽霊、けして足は出しません。