呉座勇一さん「歴史に学ぶ」でなく「歴史を学ぶ」2018/10/21 08:17

 同じ朝日新聞の文化・文芸欄の8月19日に、日本史学者・呉座勇一さん「陰 謀論隆盛「歴史に学ぶ」に警鐘」という記事があった。 14日に「呉座勇一さ んの「「鎖国」の概念 昔と今」」に書いた呉座さんだが、『応仁の乱』(中公新書・ 2016年)に続いて、『陰謀の日本中世史』(角川新書)がベストセラーになって いるそうだ。 武士が政治の表舞台に出てくる保元の乱、明智光秀が織田信長 を討った本能寺の変、勝った徳川家康に強大な権力を与えることになった関ヶ 原の戦い。 誰もが知る日本中世の歴史を、呉座さんが「陰謀」という切り口 で読み解き、歴史にまつわる様々な陰謀論や俗説を、専門家の視点で検証した 本だという。 呉座さんは「陰謀」と「陰謀論」は別だとする。 公家、武家、 皇族など、様々な人間の思いや計略が交錯した時代は、今なお高い関心を集め る。 そこで学会では相手にもされない歴史の「真相」を語る「陰謀論」が注 目され、SNSの浸透で拡散したりする。 「はめたつもりがはめられていた」 という加害者と被害者の逆転だったり、一番得した人間が黒幕だったり、根拠 がとぼしいまま、特定のパターンに当てはめられた「物語」ばかり。 「歴史 に学ぶ」というのが、こうした「物語」に基づいて教訓を得るということなら、 やめた方がいい、と。

呉座さんの挙げる一例は、太平洋戦争で日本軍が奇襲を多用することになっ た背景の一つとされる、源義経が一ノ谷の戦いで見せた「鵯越(ひよどりごえ) の逆落とし」だ。 断崖絶壁を馬で駈け下り、敵陣の背後を急襲して大軍の平 氏を破ったもの。 それが「奇襲でアメリカに勝てる」となったのだが、うま くいったのは真珠湾攻撃など最初だけで、後は連敗だった。 鵯越の話は、後 の研究で創作と考えられているのだそうだ。

呉座勇一さんは、重要なのは、「歴史に学ぶ」ではなく「歴史を学ぶ」ことで ある、と言う。 歴史的事実は、常に覆され、更新されていく可能性をはらむ からだ。 「複雑な資料を読み進めながら、仮説を立て、調べ、資料の真贋を 見定め、事実と言える程度にまで自分で高めていく。こうした歴史学の手法は、 現代の情報社会を生きるうえで重要になりつつあると思う」と、高久淳記者に 語っている。