坂本龍馬の手紙2018/10/24 07:14

磯田道史さんに『龍馬史』(文藝春秋・2010年、文春文庫・2013年)という 本がある。 「龍馬の生涯を語れば、そのまま幕末史の生きた教科書となりま す。幕末史は複雑ですが、龍馬を主人公にしてみてゆけば、それが何であった のか、はっきりした像が見えてくるはずです。そのなかで龍馬暗殺の「犯人」 についても考えてゆきたいと思います。」と「はじめに」にある。

第一章は「自筆書状から龍馬を知る」で、私も大好きな龍馬の手紙から、龍 馬像を紹介する。 私は、磯田道史さんが引用している宮地佐一郎『龍馬の手 紙-坂本龍馬全書簡集(付)関係文書・詠草』(旺文社文庫・1984年)を持っ ていて、愛読した。 その本が出る前の1980(昭和55)年には、ハガキ時代 の「等々力短信」にこんなことを書いていた。

       等々力短信 第184号 1980年6月15日

 将来の伝記作家たちは、ひどく困るのではないだろうか。 用事を手紙でな く、電話ですませることが多くなって、記録が残らないからである。

 安岡章太郎さんが、坂本龍馬について、当時龍馬と同じような活動をした人 物は沢山いたかもしれないが、手紙を書いたから龍馬は残った。 とくに姉の 乙女宛の生き生きとした手紙が素晴らしいとラジオで語ったことがある。

 脱藩後一年、幸運にも勝海舟に認められて、前途に光明を見出した文久3年 (1863)、3月20日付の姉乙女あての手紙。 「さてもさても、人間の一生は がてんの行かぬは元よりの事、うんのわるいものは風呂より出でんとしてきん たまをつめわりて死ぬるものあり。それとくらべて私などは運がつよく、(中略) 今にては日本第一の人物勝麟太郎といふ人の弟子になり日々兼て思いつく所を 精と致し居り候」(平尾道雄著『龍馬のすべて』久保書店129ページ)。

 磯田道史さんも、この手紙を紹介し、ここに早くも龍馬最大の長所であり同 時に欠点が現れている、という。 運が良いから自分だけは死なない、と過信 している。 結局、何度も危険な目に遭って生き延び、最後には死んでしまう わけだが、龍馬は常に自分だけは死なないと根拠のない自信を持っていた。 し かし、この自信家ぶりは、龍馬だけのものではなく、幕末維新に活躍した多く の人に共通した特徴だと、磯田さんは書いている。 大久保利通、西郷隆盛、 伊藤博文、みな自信家だ。 それから高杉晋作、大隈重信あたりは、もういや らしいほどに我執の強い、自信の塊だった。 「自信のない人間に世の中は変 えられません。誇大であろうと、根拠がなかろうと、この自信で彼らはこの国 を変えたのでしょう。」と。