柳家三之助の「棒鱈」2018/11/03 06:35

 緑色の羽織、灰色の着物の三之助、最近、不寛容、けしからんものを許さな いという風潮がある、自己責任と言う。 われわれ(噺家)は、けしからんも のばかり。 煙草が喫いづらくなっているが、酒飲みがそんな時代になったら 嫌だ。 隅に飲酒席なんてのがあって、そこで立ち飲みする。 近しい人で、 酒を飲まない人がいて、一緒に仕事をする。 今日も、そんな気がする(三之 助は、トリの小三治の弟子)。 食事をすると、自分は飲まないのに、飲めよな んて言ってくる。 で、おまんま食ったりする。 半ば強制的に飲むんだけれ ど、てめえ、いつまで飲んでいるんだ、という顔になる。 常々、わかりあえ ない。 今晩あたりも、わかりあえない気がする。

 寅さん、あのよう、あのよう。 なんだい、あの世に行きてえのか。 テエ の塩焼き、お前のは身がいっぱいついてるのに、俺のは骨ばかりだ。 お前は さっき、うめえうめえって食っちゃったからだろ。 その小鉢、芋蛸の煮たの、 なんで俺のは芋ばかりなんだ。 お前はさっき、蛸ばかりよって、食ってたか らじゃないか。 知らなかったね。 寅さん、酒は男同士飲むのがうまいか、 きれいにおけえけえしたお姐ちゃんが、あなた、おひとついかがなんていうの と、どっちががうまい。 女が呼びたいのか。 女を呼ぶ銭がない。 なんと かするよ。 オーイ! 何か御用で。 芸者を一匹、生け捕って来てもらいた い。 誂え方がある、あまり若くねえ、27、8から30デコボコてな年増がいい、 乙なノドをして、物を食いたがらない、酒を飲みたがらない、お金を欲しがら ないで、帰りに小遣いをくれるようなのを。 すまないね、こいつ酔っ払うと、 癖が悪くなる、これ、鼻紙代だ、取っといてくれ。

 寅さん、隣の座敷が、また芸者を誂えた。 旦那様、聞きましたよ、最近は 品川でお浮かれだそうで。 そんなことはなかたい。 こちらは、調べがつい てるんです。 かくすだては出来ねえな。 クラサガミとかいう所にあがった。  土蔵相模でしょう。 ホーユー数名とな、大井、大森、蒲田、川崎とな。 ま だ、お料理が来てないんですか、旦那様のお好きなものは? わいの好きなも のは、「アカベロベロの醤油づけ」「イボイボボウズのスッパヅケ」たい。 「ア カベロベロの醤油づけ」? マグロのサスミだ。 「イボイボボウズのスッパ ヅケ」? 蛸の三杯酢。

 寅さん、隣の芋侍のセリフを聞いたか。 「アカベロベロの醤油づけ」「イボ イボボウズのスッパヅケ」だってよ。

 旦那様の、お声を聞かせて下さいませ。 お声を! お声を! お声を!  (突然、大声で)デェーヤーッ! ご冗談ばっかり、雄叫びでなく、お歌を。  なれば『もずのくちばす』を、三味線はいらない。 「♪サブロベエーの目ん 玉ひっこぬいて、たぬきゃーの腹づつみスッポンポン」。

 あれ歌かい、絞め殺されてるのかと、思ったよ。 もう一曲、お願いします。 今度は『十二ヶ月』を。 「一ガチはマチ(松) カザリ、二ガチは初午テンテコテン、三ガチはヒナマツリ、四ガチはオシャカ サマ」。 笑うんじゃありませんよ。 

寅さん、帰ろうよ、酒がまずくなる。 「三ガチはヒナマツリ、四ガチはオ シャカサマ」だとよ。 こういう粋なのを歌うもんだ。 テトチンテトチン「♪ 四国西国島々までも、都々逸ァ恋路の橋渡し」、「♪明けの鐘ごんと鳴る頃三日 月形の、櫛が落ちてる四畳半」。

 お隣も負けないつもりですよ。 「♪りゅうきゅうおじゃるならー、わらず 履いておじゅれー、酒は飲め飲め、みろくまんじゅう、くわんぱくわんぱ、一 つ二つ、パッパー」

 何だあれは、隣の座敷、ちょっと見て来るよ。 よしな、隣はリャンコだ。  オシッコだよ。 覗こうとすると、障子が外れて、座敷に転がり込んだ。 人 間が降って来る天気でも、あるめえし。 手前か、妙な歌を歌ってるのは、酒 がまずくなる。 あにか。 あにかだと、お前を弟に持った覚えはない。 「ア カベロベロの醤油づけ」ってのは、これか、ホレッ。 人の面体にアカベロベ ロをぶっかけおって、それにならえ、たたっ斬ってやる。 お刀は、いけませ ん! 誰か、誰か! お客様が喧嘩ですよ。

階下でちょうど「鱈もどき」をつくっていた板前が、胡椒をかけている最中 だったが、喧嘩を止めに入った。 旦那様、いけません、お刀はいけません。  勘弁ならぬ、ヒーー、ハックション。 斬れるものなら、斬ってみろ、クショ ン、ハクション。 まあまあ、へーー、クション。 おかみさんに叱られる、 ハクション、ハクション。

二階の喧嘩は、どうなったい? 心配するねえ、今、コショウ(故障)が入 ったよ。

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