五街道雲助の「付き馬」前半2018/11/04 08:16

 近頃、聞かなくなった言葉に「馬を引く」がある。 引く男を「馬子」。 吉 原へ馬で行く。 雷門の前に並木があって、今も「並木の薮」という蕎麦屋が ある。 馬道の名も残っている。 編み笠茶屋があって、編み笠を借りる。 女 の品定めをするのに、編み笠を通して覗く。 編み笠のない奴は、扇子の竹の 間から見る、「馴れし廓の袖の香に、見ぬようで見るようで、客は扇の垣根より」。  ひどいのは、格子につかまって覗き、こめかみに「格子ダコ」とか、何とかが 出来る(「ひやかしダコ」?)。 いろんなことを言う。 勘定が足りないと、 馬子さんに頼んで、勘定を取りに行ってもらう。 これを「付き馬」、「馬」 と言っていたのが、勘定を持っていなくなったりするから、店の人間、若い衆 が付いて行くようになった。 若い衆、妓夫(ぎゅう)になっても「馬」と言 っていたが、それをまいて逃げたりする。 吉原では「馬」を出さないという 決まりになるが、客の着る物がいいと、つい、はまってしまったりする。

 一晩の、ご愉快を…、おけーけーを済ましたばかり、皆さん部屋持ちで。 登 楼(あが)りたいけれど、懐に金が足りない。 実は浅草田町の伯母さんが金 貸しで、ゴホンゴホンと咳をして寝込んでね、代わりに仲之町の店に金を取り に来た。 盛り塩をし、チュウチュウ鼠の鳴き真似をして、縁起を担いでる最 中、玉(たま)を見て、しばし茫然、ちょいと間が悪かった。 遊びは間のも んだ、後からじゃあ、気が萎えちゃう。 「田楽の串で小判の封を切り」とは いうが、金をもらえば、里心もつく。 一つ歩み寄ろう。 今晩、私が遊ぶ。  明日朝、一筆書くから、金を取りに行ってもらう。 内所と相談します。 気 が萎える、駄目なら帰る、またということにしよう。 とりあえず、登楼(あ が)って下さい。 お登楼りになるよ! 酒、台の物、芸者、幇間をあげドン チャン騒ぎ、ほどのよいところでおしけとなる。

 お早うございます。 ゆんべは面白かったね。 ちょいと騒ぎ過ぎて、迷惑 じゃなかったかね。 恐れ入ります、内所もお喜びで。 コレを。 ツケ、勘 定書きか。 締めだけでいい。 23円65銭。 若い衆さん、何かの間違いじ ゃないのかい。 安い、只みたいなもんだ、気に入った。 みんなに贔屓にし てもらうよ。 それで一筆書くんだが、印形を忘れた、一緒について来てもら えないかい。 お供します。

 近々、裏を返すよ。 店は、あそこだ。 まだ早かったか、内所も寝てます よ。 ちょいと、回りましょう。 吉原の朝が好きでね、屋根で猫があくびを している、いい天気だね。 ちょいと土手に上がってみましょう。 お湯屋が ある、付き合い給え。 手拭とシャボンを、湯銭を立替えて。 いい心持だね。

 湯豆腐で、一杯やるか、付き合い給え。 ゆんべの客で満員だ。 お銚子を 三本。 これで、おつもり、おつもり。 お愛想を。 92銭、安いね。 君、 1円立て替えて。 持ち合わせがありません。 湯銭払った時、こういう形で、 財布の隅に1円が畳んであるのを見た。 おつりはいらないよ、なかなかいい お尻をしてるじゃないの。

 ちょいと、歩こう。 路地にいいシャモ屋がある、藤棚を右に六区、花やし きだ。 象にパンでもやるか。 茶畑に、瓜生岩子の銅像、人形焼の屋台があ って、観音様、十八間四辺、鳩が豆鉄砲食ったようだ。 台の上に細い棒がの っていて、鳩が来ると殴打しようとする。 仁王門だ、草鞋と提灯の大きいこ と。 仲見世だ、人形焼の店の横には卵の殻、三日前からの分が積んである、 商売がうまい。 隣は、玩具屋、電車ごっこ、新橋、築地、おしまい。 豆屋、 雷門で見たことない、御一新の前まではあった。 神谷電気ブラン、電車通り、 築地回りのボギー車が3台ある、乗りましょうか。

 よくペラペラしゃべりましたね、吉原へ帰りましょう。

コメント

_ 轟亭(瓜生岩子のこと) ― 2018/11/04 21:07

(瓜生岩子…『広辞苑』では、うりゅういわ【瓜生岩】女性社会事業家。岩子とも。陸奥国耶麻郡熱塩村(現、福島県喜多方市)生れ。孤児・戦死者遺族・窮民などの救護、免囚保護事業、堕胎防止などに努め、済生病院を開設。(1829~1897))

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