五街道雲助の「付き馬」後半2018/11/05 07:18

 近くの田原町におじさんがいるんだ。 昔、遊んでいたから、話がわかる。  信じられねえ、さっきから聞いてりゃあ、勝手なことばかり言って。 西洋の 楽隊みたいに、トンガラガッタ、トンガラガッタ。 ただ商売が言いにくい、 早桶屋、葬儀屋なんだ。 けっこうな商売じゃないですか、われわれの方では、 はかゆきがするなんて申します。 お前さんにお礼がしたい、23円65銭に立 て替えを入れて、10円札3枚ではどうだ。 その帯がいけない、先が猫じゃら しになってる、帯源の帯、献上のがある、一度締めただけの、それをあげよう。  店先で新聞を読んでいるのが、おじさんだ。 ハナは小言だろう、お前さん、 ここで待っていて。

 (大きな声で)どうも、おじさん、お久し振りで、おじ さんにお願いがありまして上がったんで。 (小声で)あそこの男、電信柱と ごみ溜めの間にいる、ゆんべ、あいつの兄貴が腫れの病で亡くなりまして。 太 っているところに、腫れの病で、もうバカに大きくなっちゃって、普通の早桶 じゃあ、間に合わない。 で、図抜け大一番小判型ってやつを、どこでも断ら れて、ほとほと困っている、(大きな声で)こしらえていただくという訳には いかないでしょうか、おじさん。 それは気の毒だ、職人が面白そうだ、やっ てみてえって言ってるから、こしらえてやろう。 こしらえて下さる。 (小 声で)あいつは気が動転しているから何を言い出すかわかりません、(大声で) 請け合ってやって下さい。 確かに、手前どもで請け合います。 私は二、三 日したらまた伺います、出来たら渡してやって下さい、お先に失礼。

 ちょいと手間が取れるかもしれませんよ。 このたびは、とんだことでござ いましたね。 よくあることで。 だいぶ長いことで? ゆんべ一晩で。 急 に来た? ふいに、いらっしゃいました。 驚いたでしょう? べつに驚きや しません。 だいぶはれたそうで? はれたか、惚れたか、わかりませんが、 宵の内はいい塩梅で。 夜になって、バッタリいったりするんだね。 恐れ入 ります、ヘッヘッヘ。 それでお通夜の具合はどうでした? ばかなほど賑や かで、芸者を三組揚げて、ワーーッと。 いいかもしれない、なまじ、じめじ めするよりは。 仏様は、喜んだろう。 ええ、仏様はばかな喜びようで、し まいには素っ裸でカッポレを踊ったりして…。 お前さん、気を確かに、落ち 着けよ、そうだ何か、つく物があると言っていたな。 ああ、帯です。 そう 帯か、笠はいいか。 笠のことは、伺っていません。 できたら、どうします?  財布を持っています。

 急ぎの仕事で、まあ、こんなものですが。 これは立派なもので、大きい早 桶ですね、どういう方の、ご注文で。 どういうって、お前さんが誂えたんだ。  兄さんが、ゆんべ腫れの病で亡くなったんだろ。 第一、兄がいません。 な にっ、さっきのアレがそう頼むから、こしらえたんじゃあないか。 でも、あ の人はおたくの甥御さんでしょ、「おじさん、おじさん」って言ったら、返事 をしていた、こしらえてやると言っていたじゃないですか。 初めて、会った 人だ。 アーーッ、やられちゃった。

 私は吉原(なか)の若い者で。 馬かい、お前さん。 おかしな奴だと思っ たんだよ、お前は逃げられたんじゃねえか、間抜けだな。 こんな風呂桶の化 け物みたいな早桶、他に売り口がねえ。 職人の手間は負けとこう、木口の代 だけ5円置いて、背負って帰れ、背負ってけ。 大門をこんなもの担いで通れ ない、縁起でもない。 何を、この野郎、おれんとこの商売にケチをつけるの か。 お前がドジだから、こんなことになるんだ、みんな出て来て背負しちゃ え。 5円はおろか、1銭もない。 おい奴、吉原(なか)まで、馬に行け。