柳家小三治「転宅」本篇・前半2018/11/08 07:16

 本題に入ります。 昔から、ライオンは死してタテガミを残し、人は死して 名を残す、という。 人と生まれて、名を残したい。 いい事で名を残すのは 難しいが、悪い事で名を残すのも難しい。 泥棒では、袴垂保輔、熊坂長範、 石川五右衛門。 大泥棒というと、百人が百人、石川五右衛門と言うけれど、 何を盗ったために大泥棒になったか、わからない。 実は、私も知らない。 秀 吉の寝首を掻こうとして、大坂城に入った。 大坂城は濠が深い、忍びの者(市 川雷蔵の映画で観た)が城壁の忍び返しの逆勾配をよじ登って、忍ぶには忍ん でも、秀吉は小さい時から猿知恵があって、廊下に仕掛けがある、うぐいす張 りの廊下、ホーホケキョと鳴る。 石川五右衛門は捕まって、三条河原で釜茹 での刑になった。 秀吉は目立ちたがり屋で、プロパガンダのようなもの、竹 矢来に鉄の釜を据え、火を熾し、油で茹でた。 釜茹でというより、釜揚げの 刑、うどん屋からクレームがついた。 五右衛門は立派に辞世の句を詠んだ、 <石川や浜の真砂は尽きるとも世に盗人の種は尽きまじ>。

 われわれの方に出てくるのは、デモ泥。 日本橋浜町あたりの横丁、黒板塀 のそれらしい家で、囲い者、お妾さんが、旦那を送って出てきた。 さっきの 五十円は手提げ金庫に入れて、ちゃんと鍵をかけて、油断のないように。 明 日、五十円と持ちきれないような物を持ってくるから。 その様子を見ていた のが、デモ泥。 驚いたね、あんな爺ィが、いい女を囲っている。

 お膳の上に、贅沢な小ぶり薄手の徳利が…、まだ入ってるぞ。 美味い、い い酒だ、許せないね。 家も安くないよ、天井はいい木目だ、桐の箪笥、長火 鉢は欅、南部鉄瓶、安くないよ。 小鉢に、どろどろしたものが…、ん、こん な美味えもん、ズルズル、美味えなマグロも。

 あら、お前さん、どこから入ったの。 静かにしろ。 何だ。 何だとは、 何だ。 泥棒だよ、俺は。 さっき旦那が置いていった五十円、出さねえか。  騒ぐと二尺八寸の段平物を振り回すぞ。 よーよー、音羽屋。 馬鹿にすんね え。 お前さん、旦那が贔屓にしている芸人か何かだろう、驚いたところへ、 カッポレかなんか踊ろうってんだろう。 このカッポレ泥棒、踊れ! 思いっ きり大きな声を出して、声が隣に聞こえたら、どうするんだよ。