敗北覚悟で抵抗して死んだ西郷と日米戦争2018/12/02 06:28

 佐伯啓思さん『異論のススメ』(7月6日)、「自刃した「西郷どん」の精神」 がどうして「日米戦争と重なる悲劇」なのかの、後半である。 福沢諭吉の『明 治十年 丁丑公論(ていちゅうこうろん)』をお読みになって書かれたのだろう。 

「明治の文明化を唱えた福沢諭吉も(その前に勝海舟)、西郷の死を惜しんで いた。明治政府に批判的だった福沢はいう。政府が好き勝手にしているのに、 世の中はすべて「文明の虚説」に欺かれて抵抗の精神が失われている。世には びこっているのは、へつらいやでたらめばかりで、誰もこれをとがめるものは ない。そうした時に、西郷は立ち上がった。それを賊軍呼ばわりするのは何事 か、というのである。」

 「明治は、本来の攘夷の精神を忘れて、西洋模倣へとなだれ込んでゆく。こ の風潮に我慢がならなかった西郷は、敗北を覚悟で戦い自刃した。福沢による と、西郷は、明治政府のありさまを見ると、徳川幕府には悪いことをした、と 後悔していたそうである。そして、西郷の死後、一見したところ、武士的な精 神、無私や自己犠牲の精神はすっかり忘れ去られ、ひたすら日本は文明開化の  近代化路線を走ることになる。」「押し寄せる西洋近代文明の流れに、敗北を覚 悟で抵抗して死んだ西郷に、つい私は、敗北覚悟の日米戦争へとゆきつく日本 の近代化の帰結を重ねたくもなってくる。」 以上が、佐伯啓思さん『異論のス スメ』(7月6日)である。 

『丁丑公論』については、2016年3月1日に、山本博文さんのちくま新書 『現代語訳 福澤諭吉 幕末・維新論集』を紹介したことがある。 この新書に は、『旧藩情』『痩我慢の説』『明治十年 丁丑公論』『士人処世論』が収録されて いる。 もう福沢の原文は読みにくいという人も多いようなので、お薦めした い。 あらためて私も、この本で『丁丑公論』を読み直してみた。 例えば、 佐伯さんが「西郷は、明治政府のありさまを見ると、徳川幕府には悪いことを した、と後悔していた」と書いたところは、山本博文さんは、こう現代語訳し ている。

 「遠方に住む薩摩人の耳に入るものは天下の悪聞のみであって、ますます不 平を持つことになる。西郷も、最近の世間の有り様では、倒幕の兵を挙げたこ とは無益の労というものであって、かえって徳川家に対して申し訳がないとし て、常に恥じる気持ちを表したという。この伝は、誤報の多いことはもとより 免れることができないけれども、すべてが事実無根のことだけを聞いたわけで はない。/これらの事情によって考えれば、彼らの不平憤懣は、すでに極度に 達していたと言うべきだろう。」

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