「攘夷」と外から見たゴーン事件2018/12/03 07:12

佐伯啓思さんが『異論のススメ』(7月6日)で、明治維新という「革命」が 内包する根本的な矛盾として、それが攘夷、すなわち日本を守るための復古的 革命であったにもかかわらず、革命政府(明治政府)は、日本の西洋化をはか るほかなく、そうすればするほど、本来の攘夷の覚悟を支える「日本人の精神」 が失われてゆくという矛盾である、とした。

福沢諭吉は『福翁自伝』「老余の半生」の初めの方で、当時の状況と心境を、 「維新の際に幕府の門閥制度鎖国主義が腹の底から嫌いだから佐幕の気がない。 さればとて勤王家の挙動を見れば、幕府に較べてお釣りの出るほどの鎖国攘夷、 もとよりコンナ連中に加勢しようと思いも寄らず、ただジット中立独立と説を きめていると、今度の新政府は開国に豹変した様子で立派な命令は出たけれど も、開国の名義中、鎖攘タップリ、何が何やら少しも信ずるに足らず、東西南 北何れを見ても共に語るべき人は一人もなし、ただ独りで身にかなうだけのこ とを勤めて開国一偏、西洋文明の一点張りでリキンデいる内に、政府の開国論 が次第々々に真成(ホントウ)のものになって来て、一切万事改新ならざるは なし、いわゆる文明駸々乎(しんしんこ)として進歩する世の中になったこそ 実に有難い仕合せで、実に不思議なことで、いわば私の大願も成就したような ものだから、もはや一点の不平は言われない。」と書いている。

「攘夷」という言葉で、最近気になる指摘があった。 『パリの福澤諭吉』 (中央公論新社)という本もあるパリ在住のジャーナリスト山口昌子(しょう こ)さんが、朝日のWEBRONZAに、パリで感じるゴーン事件の危うさを書い ていた。 二つの懸念がある。 一つは、日産自動車は、カルロス・ゴーン氏、 即ちルノー、即ち三色旗(フランス)という虎の尾を踏んだのではないか? フ ランスは中央集権国家なのだ。 二つ目は、日本はやっぱり「攘夷」、「外国人 嫌い」だという印象をフランス人始め外国人に与えたのではないか? 「サッ カーのハリルホジッチ監督を解任したではないか」と言い出す人もいる。 フ ランスのメディアも同様の論調だ。 代表紙「ルモンド」や経済紙「レゼコー」 も「陰謀説」を流した。 「レゼコー」はその後、「陰謀説」には疑問符を付け たが、“ブルータス・西川社長”との表現を使い、主人シーザーに目をかけられ ながら、暗殺団に加わったブルータス、つまり“裏切り者”に例えている、の だそうだ。

ゴーン氏は、ブラジル生まれ、フランスの旧植民地レバノンとフランスの二 重国籍を持つ。 理工科系の秀才学校ポリテクニック(理工科学校)卒のエリ ート、同校の上位5、6人しか入学できない最難関校MINES(高等鉱業学校) に進んだ大秀才。 卒業間近にミシュランから電話がかかり、大手ミシュラン のブラジル工場長として就職。 ミシュランは同族会社なので社長になれない と言われ、ルノーのNo.3で引き抜かれたのだそうだ。

外国人の「攘夷」という印象はどうなるのか、一般に一民間会社の問題とす る日本政府はどう動くのか、事件の推移をじっくりと見守りたい。