柳家花緑の「柳田格之進」後半2018/12/10 07:15

 徳兵衛、約束の五十金だ、持って行きなさい。 断っておくが、脇から都合 した金だ。 もし他から五十両出たら、どうする。 お詫びの印に、こんな首 でよかったら、主・源兵衛の首と一緒に差し上げます。

 この薄馬鹿野郎、私がいいと言ったじゃないか。 今すぐ、返して来い。 徳 兵衛が柳田の長屋へ行くと、もう釘付けで、引き移っていた。 ああ、生涯の 友を無くしてしまった。

 十二月二十八日、萬屋の大掃除、二番番頭の吉之助が、貞吉、離れを掃除し よう。 額をきれいにしたらどうだろう、ほこり富士だ。 裏で、ガタッ、お 金ですぞ。 旦那様。 五十両か、アッ、十五夜の晩の五十両だ。 はばかり に立った、あの時、額の裏に挟んだんだ。 忘れてしまったんだ。

 柳田様を探すんだ。 もしお金が出たらどうすると言われて、こんな首でよ ければ、一つでは寂しいでしょうから、旦那の首もと申しました。 仕方がな い。 大掃除は止めだ、みんなで柳田様を見つけ出せ。 見つけたら五両もら えるというんで、店中が活気づく。

 一陽来復、あらたまの春。 番頭の徳兵衛が鳶頭を連れて年始回り、湯島の 切通しにかかった。 あんぽつの駕籠(竹製で左右に畳表を垂らした町駕籠) の横に侍が立つ、坂なので降りたのだろう、立派なお武家だ。 徳兵衛殿では ござらぬか、柳田格之進だ、ご無沙汰しておるが、皆お達者か。 おかげで江 戸留守居役となり、三百石頂いておる。 良い所であったな、一献酌み交わそ う、湯島天神の境内で。 鳶頭、柳田様だ、店に伝えてくれ。 すぐ伝えるよ、 立派な葬式を出すから。 付いて来なさい。 柳田様にお話があります。 そ れは言ってはならぬ、目出たいのだ、春である。 五十両の金が、出たんでご ざいます。 何と! 今日は吉日だ。 その折、その方と交わした約束があった、 忘れてはおるまいな。 明日の昼頃、萬屋宅へ伺う。 風呂に入っておけ、首 を洗っておけ。

 源兵衛殿、長々ご無沙汰して申し訳なかった。 お手をお上げ下さい。 旦 那様は、あの時、行くなと申したのに、私の一存で、柳田様の所に参ったので ございます。 私だけを、お斬り下さい。 番頭徳兵衛の命だけはお助け下さ い、徳兵衛には老いた母がおりまして。 私だけを、お斬り下さい。 黙って くれ、今さらそのようなことを申して何とする。 あの五十両、娘絹が身を売 ってこしらえた金だ。 わが殿の厚意で請け出して頂いたが、以前と別人のよ うであって、飯を食う時以外、横になっていなくてはならぬ。 両名を斬らね ば、娘絹に対して申し訳が立たない。

 えーい、という掛け声とともに、床の間の碁盤が真っ二つ。 両名を斬らん としたが、主従の情を見て、柳田の心が揺らいだ。 両名を助けてつかわす。

 二番番頭の吉之助が、柳田の屋敷に使いに通う。 そしてお嬢さんの絹にい ろいろと面白い話をする内に、氷のようなお嬢さんの心がほどけた。 この方 とお会いするのが嬉しい、吉之助もお嬢さんとお目にかかるのが楽しいとなっ て、やがて二人は夫婦(めおと)となる。 徳兵衛は、萬屋源兵衛から暖簾分 けしてもらい、吉之助が番頭になった。