俳句「秋の空余生まもなく十八年」2019/01/01 07:50

 明けましておめでとうございます。 平成31年、紋切型のいわゆる「平成 最後の」元旦です。 落語研究会を一日お休みし、毎年元日のお笑い種に、ご 覧に入れている自作の俳句、俳誌『夏潮』一月号の親潮賞応募作、題して「余 生まもなく」二十句です。

初句会下手に見える句詠まんとす

寒の水顔を洗ふて出直さん

関東の行けども行けども春田かな

栗の花匂ふ木立やドーム覆ふ

新緑の大泉水に一鵜かな

雨蛙お前の額も広いのか

世田谷は坂また坂や雲の峰

露草の曲り角をば守りをる

秋晴や是好日と武蔵野へ

団栗は転がる転がるハケの坂

紅葉浮く湧水の池澄み切りて

踏みつけしプラタナスの実を拾ふ

帽子にドスン団栗の落ちてきて

貼紙は落柿注意に蜂注意

金水引咲く天平の寺跡に

天高く妻と下町洋食屋

新蕎麦の旗や商店街の風

秋夕焼ママチャリの影丘の上

もうお会式近頃一年短くて

秋の空余生まもなく十八年

 この内『夏潮』一月号に掲載して頂いたのは、次の四句でした。

初句会下手に見える句詠まんとす

世田谷は坂また坂や雲の峰

天高く妻と下町洋食屋

もうお会式近頃一年短くて

柳家小せんの「金明竹」前半2019/01/02 07:28

 どうか一つ、と小せん、ワッと笑っても、それっきり、笑わなくても、それ っきりだ、と。 ボーーーッと生きてる人物は、やりやすい。 愚かしいとこ ろのある、いわゆる馬鹿、四十八種類ある。 食い気の馬鹿、底抜けの馬鹿、 兄弟の馬鹿など。 兄ちゃん、一年はお正月を入れて、十三か月だよね。 馬 鹿、十四か月だ、お盆が抜けてらあ。 家族揃っての馬鹿。 お雛様と、鯉幟 は、どっちが先? 兄弟でもめていると、お父っつあんが、馬鹿、来年の事が 今からわかるか。 こういう家は、必ず町内に一軒はある。 ないな、と思う 人は、自分の所だ。

 松公に、親類の道具屋のおじさんが苦労する。 猫のヒゲを抜くんじゃない、 表の掃除をしろ。 水を撒け、向こうに回って、そうっと撒くんだ。 ほら、 みろ。 相済みません、手前どもの小僧でして。 二階の掃除をしろ。 何を 持って行くんだ。 水を撒くんだろ。 掃除はいい、店番をしろ、奥で調べ物 をしているから、誰か来たら、必ずおじさんに知らせるんだぞ。

 急な雨だ、駆け出していくよ。 ごめん下さい、ちょっと軒を貸して下さい。  傘を貸してやろうか、立て掛けてある傘を。 こんな、いい傘、よろしいんで、 お借りします。 誰か来たな。 そこにあった傘を貸してやった。 蛇の目の か、おじさんが一度使っただけの、一番いい傘だぞ。 どこの方に貸した。 知 らない人。 傘にも断わりようがある、家にも貸し傘は沢山あったんですが、 この長湿気(ながじけ)で、骨と皮がバラバラになったので、焚き付けにした、 と言うんだ。 誰か来たら、必ずおじさんに知らせるんだぞ。

 雨が上がってきた。 松っちゃん、鼠が出たので、猫貸してくれ。 家にも 猫はいましたが、この長湿気で、骨と皮がバラバラになったので、焚き付けに しました。 松っちゃんは、変わってんな。 誰か来たな。 お向うの相模屋 さん、猫を借りに来たで、教わったように、こう断わった。 猫には猫の断わ りようがある、最近盛りがついて家に寄り付かない、どこかで海老の尻尾を食 ってきて、家の中で粗相をして困る、マタタビをなめさせて、奥に寝かせてあ ると、言うんだ。 誰か来たら、必ずおじさんに知らせるんだぞ。 何べんも、 何べんも、言うけれど。

 よく人が来るな。 旦那は、おいででしょうか、隣町の讃岐屋ですが、いら っしゃったら、ちょっとお顔をお借りしたい。 旦那ですか、最近盛りがつい て家に寄り付かない、どこかで海老の尻尾を食ってきて、家の中で粗相をして 困る、マタタビをなめさせて、奥に寝かせてある。 えっ、主人共々、改めて お見舞いに参ります。 また誰か来たな。 隣町の讃岐屋さんが、旦那の顏を 借りに来たんで、あたい、ちゃんとこれこれと断わった。

 えらいことになった、私はすぐ讃岐屋さんに行って来ます、お前、店を見て てくれ。 私は縫物の仕事がある、松っちゃん、誰か来たら、必ずおばさんに 声をかけるのよ。

 また、人が来た。

柳家小せんの「金明竹」後半2019/01/03 08:04

 また、人が来た。 「ちょっと、ごめんやす。 旦(那)はん、いてはりま すか。 わて京橋中橋の加賀屋佐吉方から参じました。 先だって仲買の弥市 を以て取次ぎました道具七品、祐(示右)乗宗乗光乗三作の三ところ物、刀身 は備前長船の住則光、横谷宗珉(王民)四分一拵小柄付の脇差、柄前は埋れ木 じゃと言うてでございましたが、ありゃあたがやさん(鉄刀木)で木が違うて 居りますさかい、ちょっとお断り申し上げます。 自在は黄檗山金明竹、ズン ドの花活には遠州宗甫の銘がござります。 利休の茶杓、織部の香合、のんこ の茶碗、古池や蛙飛び込む水の音。 これは風羅坊(芭蕉)正筆の掛物、沢庵 木庵隠元禅師貼り交ぜの小屏風、あの屏風は、私の旦那の檀那寺が兵庫にござ りますが、その兵庫の坊主の好みまする屏風やさかい、兵庫にやって兵庫の坊 主の屏風にいたしまする、こないにお伝え願います。」 面白えなあ、十銭やる から、もう一遍やれ、伯母さん面白いよ、表によくしゃべる乞食が来た。

 あんた、お家はんですか? お湯屋さんは、二丁ばかり先。 今日もよいお 天気で。 うふふふふ、お茶淹れてらっしゃい。 これに叱言言っていて、二、 三、聞き逃したので、もう一度。 もう三遍もやって、顎がガクガク、耳がガ ンガンしてまんのや。 すぐにお茶を淹れますから。 行きます、さいなら。

 旦那が帰り、誰が来た? 何て言った? 初めは分からない、真ん中はモヤ モヤ、お終いはボオーーッと。 お客さん、お前が出たんだろ、どなただ。 あ ちらの方、着物着て、帯締めて。 馬鹿が移ったんじゃないか。

 そう、中橋の加賀屋佐吉さんからとか。 仲買の弥市さんが気が違って、遊 女は別の客に惚れたといい、その遊女をずん胴斬りにして、ノンコのシャア、 沢庵と隠元豆でお茶漬けを食べて、長船に乗って遠州から兵庫に着いた。 屏 風の蔭で、坊さんと寝たみたい。 一つぐらい、確かなことはないのか。 そ うそう、古池に飛び込んだんだそうで。 そりゃあ大変だ、弥市には道具七品 を買うように、手金が打ってあったんだ、買ったかな。 いいえ、買わずに飛 び込みました。

柳家権太楼の「文七元結」上2019/01/04 08:23

 外国の方が沢山いる、浅草雷門は外人だらけ。 本物の外人、見た目が外人、 この前までと全く違う。 しゃべりたい。 私も何度か外国へ行ったけれど、 行くと無口になる。 フィリピンのセブ島あたりだと、何となくコミュニケー ションが取れる。 ひとりでニューヨークへ行った若い頃、ヤンキースタジア ムに行きたかった、松井が出る、フロントの人に地下鉄で行きたいと英語でし ゃべった。 フロントマンがペラペラペラペラ、訳分かんないから、サンキュ ーって、言った。 4日間、ホットドックしか食ってない。 英会話出来たら、 どんなに楽しいか。  今90の金馬師匠が60の時、4人でレストランに行って、いきなりはステー キかとメニューを見て頼むと、ステーキみたいなものが出て来た。 6人連れ の韓国の人がいて、何とかスミダと、いろんなものを注文した。 その向こう の勘定が、みんなこっちに付いている。 金馬師匠、お笑い三人組のあの師匠 が、ヘイ、カモン、ボーイ、トラブル、トラブル、ディス、ワン・テーブル、 ザット、ワン・テーブル、別々、それが一緒、ノー、ノーよ。 ワン、ツー、 スリー、フォー、ジャパニーズ・グループ、ワン、ツー、スリー、フォー、フ ァイブ、シックス、知らない人よ、セパレーツOK? 師匠、英語うまいな、 と言っていたら、しばらくして、ボーイがココア6杯持って来ちゃった。 私、 受けないと、いやなのよ。 気持を切り替えないと、このまま「代書屋」に入 ることに…。

 親は、子供のためには、頭を下げられる。 逆は、いけない。 子がつらい 思いをするのは、悲惨。 左官の長兵衛、歳を取ってからの道楽で、火の車、 家はのべたら喧嘩だ。 暮の二十八日、空っ風の寒い晩。 今、帰った、いね えのかい。 いるよ。 灯りぐらいつけたらどうだ、油を買う銭もねえのか。  博打で、損ばかりしているからだよ。 どこをほっつき歩いていたんだい、家 は大変なんだ。 お久がゆんべからいないんだよ。 お久は、私の子だ、ふし だらじゃないよ。 探しとくれ。

 御免下さい、親方は、いらっしやいますか。 なんだい、番頭さん。 親方、 お久しぶりで、女将さんが今すぐ来て頂きたいといっているんですが。 二三 日、待ってくれないか、家は今、取り込み事で。 それは、娘さんの事じゃな いですか。 お娘子は、うちの店、佐野槌にいる。 お前さん、迎えに行って。  着物がない、お前の着物を貸せ。 私はどうするんだい、風呂敷しかない。 腰 巻はどうした? 昨日、屑屋に売った。 枕屏風で、隠れていろ。

柳家権太楼の「文七元結」中2019/01/05 07:15

 親方、表から入って下さい。 この形(なり)じゃあ。 私の羽織を、どう ぞ。 女将さん、長兵衛親方が参りました。 こっちへ入って、お座り。 ず いぶんご無沙汰だね、忙しそうだね。 親方、この娘(こ)を知ってるかい。  お久、どうしてここにいるんだ。 黙ってくれ、お前、ゆんべ家にいたんかい、 私は二、三日、風邪引いててね、寝ようと思ったら、この娘が来た。 小さい 時から、お前さんの仕事について来て、いい子だと思っていたら、いい娘にな った、気立がいい。 私のような者でも、お金を出して下さいますか、そして、 お父っつあんに意見をしてほしいと、涙ながらに訴えるんだよ。 お前さんに、 この娘の半分でも了見があったらね。 馬鹿は直らないのかい。 ついつい深 間にはまりこんで、にっちもさっちもいかなくなりまして、この通りです、助 けてくんねえ。 いったい、いくらいるんだい。 五十両。 持ってきな、証 文はいらないよ、だけどこの娘を預かる。 長兵衛さん、いつ返してくれるか ね。 十五日過ぎたら。 馬鹿言うんじゃないよ、本当の事をお言い。 三月、 待ってくれ。 こうしよう、半年、二両でも、三両でもいい、お前さんがきち んと働いてくれれば。 だが馬鹿な真似をしたら、私は鬼になる、この娘を店 に出すよ。 私を恨むんじゃないよ、みんなお前が悪いんだ。 それ、懐にし まって、叱言は叱言だ、一杯やるかい。 とんでもない、すぐ帰って、お久の ことをおっかあに話さなきゃあならない。 お父っつあん、おっ母さんのこと を大切にして、打ったり蹴ったりしないで。 女将さん、お久の事をよろしく お願いします。

 気が付くのが遅まきだけど、やり直そうと、長兵衛が、吾妻橋までやってく る。 欄干で手を合わせている、身投げだ。 気をそらしてやるのがいい、横 っ面を一つ張り倒す。 痛い! 怪我でもしたら、どうするんです。 お前は身 を投げようとしていたんじゃないか。 若いんだな、店者か。 どうしても死 ななきゃあならない訳があるんです。 何があった、若えの、面あげろ。 話 したところで、何がどうにもなるもんじゃないんで。 女の着物を着た、職人 風情だけれど、お飾りの下を、たくさん通ってきているんだ、若えの、何があ った、話してみろ。 私は横山町三丁目鼈甲問屋の若い者で、小梅の水戸様で 集金した五十両を持って帰る途中、枕橋のところで、風体のよくない男がぶつ かった。 すると、懐の五十両がなかった。 盗られたんだ、そりゃあ。 そ れで身を投げて、死のうと。 偉えな、と言いたいけれど、よく謝って、月々 の給金で返したらどうなんだ。 子供の時から、世話になっているご主人で。  相談する親や親類はないのか。 私は天涯孤独で、誰もいません。 じゃあ、 俺が一緒に行ってやろう、頭を下げようじゃないか。 それは申し訳ない、ど うぞ、お出でになって下さい。 誰か、来ないかな、この野郎を譲っちゃうん だけどな。 よく探してみろ、命を粗末にするな。 おう、ものは相談だが、 二十両じゃ駄目か、どうしても五十両なきゃあ駄目か。 オッ!(と、飛び込 もうとする若者を押え) 命を粗末にしちゃあ、いけねえんだ。 何とか、なら ないのか。 嘘じゃないんだろうな。 嘘で、死ねますか。 すまねえ、若い の、ここに五十両ある。 あなたに頂く義理はない。

 お前にやる道理はないんだよ、五十両の訳を聞いてくれ。 この寒空に、こ んな形(なり)なんで、盗んだと思われると、悔しいから。 俺が博打に凝っ てな、にっちもさっちも行かなくなって、十七になる娘のお久が、吉原(なか) の佐野槌に身を売った身代金なんだ。 半年経って、返せねえと、娘は客を取 らなきゃあならないんだ。 でも、お前と違って、命を取られるんじゃない。  お不動様でも、金毘羅様でもいい、娘が悪い病気を移されて瘡(かさ)を掻く ことのないよう、達者でいられるように、祈ってくれ。

 痛い! 逃げて行っちゃった。 言い訳ができないから、石ころをぶつけて …。 アッ、本当にお金だ、五十両ある。 親方、ありがとうございます。