長谷山彰塾長二度目の年頭挨拶2019/01/16 07:07

 10日の第184回福澤先生誕生記念会、長谷山彰塾長二度目の年頭挨拶は、事 務的な報告が多いように思った。 福沢先生の三大事業といわれる慶應義塾、 時事新報、交詢社の次として、先生の医学部、病院開設の意欲にふれ、昨年は 医学部開設100年を記念した信濃町の新病院棟が開院、北里柴三郎が開設した 看護婦養成所に始まる慶應看護が100年、薬学部が共立薬科大学との合併によ る学部開設10年を祝った。 緒方洪庵の適塾で学んだ福沢先生が開設した慶 應義塾医学所は短期で終わったものの、その遺志を継いだ北里柴三郎が大正6 (1917)年に医学科と、薬学科をめざす化学科を設立した。 医学部、看護医 療学部、薬学部の三学部が揃って、合同のライフサイエンス分野の研究の発展 は、福沢、北里の夢の実現である。

 リンダ・グラットン、アンドリュー・スコットの『LIFE SHIFT―100年時 代の人生戦略』がベストセラーになり、2007年に日本で生まれた子供は107 歳まで生きる確率が50%あると書かれている。 一昨年、政府も「人生100 年構想会議」を始めた。 社会保障費の伸びを抑えることの検討、その大学補 助金への影響、大学改革の動向などを注視しなければならない。

 AIやIoT、遺伝子研究などの進歩に、人類は脅かされることはないのか。 病 因分析などは、個人の人権を侵害し兼ねない。 そうした面での、法律や倫理 等の検討は、大学の使命である。 ダボスで開かれる大学学長会議でも、その 問題が討議される。

変化の激しい時代に、人間とテクノロジーの調和を図り、人類の幸福を実現 するために、人文社会科学から自然科学まで幅広い学問領域の研究者を擁して、 その対話が可能な総合大学の役割は重要だ。 教育面では国の内外から多様な 人材が集まり、義塾の自由な気風の中で学び、また社会のあらゆる分野に多様 な人材が輩出されることで、世界から高く評価される大学の個性が生まれる。

 慶應義塾大学では新しい学問分野である、複雑化する社会システムを研究す るSDM(システムデザイン・マネジメント研究科)、未来をデザインするKMD (メディアデザイン研究科)も昨年、開設10年を祝ったことは意義深い。   KGRI(グローバル・リサーチ・インスティテュート)は、2014年に慶應義塾 大学が文部科学省「スーパーグローバル大学創成支援」事業に採択されたのを 受けて、大学のグローバル化をより一層推進し、世界に貢献する国際研究大学 となるための基盤として、既存のグローバル・セキュリティ研究所を発展的に 改組し、2016年11月に設置された。 KGRIは、学内の関連する教育研究分 野と密接に連携しながら「長寿(Longevity)」「安全(Security)」「創造 (Creativity)」の三つのクラスターを設けて、文理融合研究推進を打ち出した。  「安全」分野のサイバー文明研究センターの共同所長としてお迎えしたディビ ッド・ファーバー博士が11月、AAAS(アメリカ科学振興会)のフェローに選 出されたという喜ばしいニュースがあった。 ファーバーKGRI教授の例は、 海外の優れた研究者を招聘するモデルケースだろう。  日本が提唱する未来社会のコンセプトとして「ソサエティー5.0」ということ がいわれる。 サイバー空間と現実空間の融合、「情報時代」のつぎの時代を模 索しなければならない。

 リカレント教育、社会人が必要に応じて学校へ戻って再教育を受ける生涯教 育の構想がある。 時代に添う新しい技術を学び直すということもある。 世 界には3千から5千の言語があり、英語の通じない地域もある。 経験を応用 して、新しい世界に対応する力が必要だ。 人間を自由にする学問、リベラル アーツ、教養教育の力だろう。 2019年度から三田オープンカレッジが開講す る。 レクチャー形式とセミナー形式で、真の教養につながるものを追及する。