「マージナルな人間としての福澤諭吉」2019/01/17 07:04

 第184回福澤先生誕生記念会の記念講演は、慶應義塾大学文学部教授で、福 澤研究センター所長の井奥成彦さんの「マージナルな人間としての福澤諭吉」 だった。 井奥成彦さんは1980(昭和55)年の文学部史学科卒業、流通経済 大学や京都産業大学で教授を務めた後、2006年から文学部教授。 昨年9月 15日に、福澤諭吉協会の土曜セミナーで「福澤諭吉と在来産業」という話を聴 いていた。

 井奥成彦さんは、「マージナル」の意味から始めた。 「周辺の」「境界の」 という意味、福沢諭吉は「境界上の人間」「境界線を跨いだ人間」だというのだ。  近世と近代、「士」(下級武士)と「庶(民)」、漢学と洋学、文系と理系(緒方 洪庵の適塾)、東洋と西洋。 そこから福沢の多様な価値観、ものの考え方、視 野の広さ、といった創造的思考が生まれ、「多事争論」の重要性を唱えることに なった。

 「マージナル」という考え方は、井奥さんが大学に入学した年に出た本、丸 山眞男門下の石田雄(たけし)『日本近代思想史における法と政治』(岩波書店・ 1976年)第1章「文化接触と創造的思考の展開―福澤諭吉の場合」に出てくる。  当時、1970年代後半~1980年代前半は、マルクス史学に飽き足らず、新しい 史学の理論が求められつつあった時代だった。 マックス・ウェーバーの『古 代ユダヤ教』(内田芳明訳、みすず書房・1962年)に「合理的予言やもろもろ の宗教革新的新形成がまず最初にはらまれたのは…文化地帯の周辺地域におい てである。」とある。

 ★「革新」は(中心からではなく)「周辺」から生まれる。 福沢諭吉は、武 士身分の周辺に位置し、東洋文化の周辺に位置して西洋文化との接触を果たし、 「創造的思考」を起こした、日本の思想史において「革新」を起こした人物で ある。

 経済史・経営史・商業史の分野に「マージナルマン仮説」がある。 作道洋 太郎らの『江戸期商人の革新的行動』(有斐閣・1978年)、商業やその経営にお いて革新を起こしたのは、三井高利や住友政友のような武士身分と商人身分の 境界にあって両方の世界を知り、視野の広い人物。