古今亭志ん五の「まぬけの釣」2019/01/27 08:31

 志ん五は、志ん八から志ん五になった昨年2月「黄金の大黒」を聴いていた。  明けましておめでとうございます、昨年はいろいろありました、カルロス・ゴ ーンが捕まった。 15、6年前、噺家になったのは、カルロス・ゴーンのおか げでして。 両親に噺家になるけど、いいかと聞いたら、サラリーマンの親父 が、福利厚生はあるのか? ゼロ。 基本給は? ゼロ。 駄目だ、許せるわ けはない。 半年経って、カルロス・ゴーンが日産を立て直した。 親父は、 日産の社員で、リストラになった。 また噺家になりたいって言ったら、許し てくれた。 サラリーマンになっても、先行きどうなるか分からない、いいよ。  噺家になったのは、カルロス・ゴーンのおかげ、家では「カルロス様」と言っ ている。

 馬鹿の番付があって、西の大関は、醤油を三升飲んで一等賞になった男、家 に帰って寝たら、二度と起きて来なかった。 東の大関は、釣りをする人、江 戸っ子は馬鹿にした、魚屋で買えばいいのに、しみったれた奴だ、と。 横綱 は、その釣りをしている人を、見てる人。 今だ! ソラッ! 早く、上げて!  まだ舐めてるだけだよ、うるさいな。 早く上げてくれ、私は急ぐんだ。  兄いの前だけど、馬鹿を見たよ、大川で半日、釣りをしている人を見ている 奴がいた。 あたいが土手の上から、それを見ていたから、間違いない。

 七兵衛さんいるかい。 与太郎か。 七兵衛さんは釣りが好きか? 大好き だ、棚の上に竿がある。 七兵衛さんは、釣りが好きだから、馬鹿だな。 与 太郎、馬鹿のお前に言われると、真に迫る。 髪結床の親方が、釣り好きは馬 鹿だって言ってたから、馬鹿のお裾分けに来た。 恵比須様っていう神様を知 ってるか。 ビールを最初に造った神様か。 恵比須様は、右手に釣り竿、左 手に鯛を持ってるだろう、釣りをする神様だ。 くやしかったら、グーと言っ てみろ。 グー。 本当に言いやがった。

 七兵衛さんは、仕事をしないな。 昼間は仕事をしない、夜、人のいない所 で釣りをしている。 殺生禁断の池、寛永寺の池、上野の御池、不忍の池だ。  夜中に鯉を釣る。 明け方、問屋に売るんだ。 今夜、あたいも連れて行って くれ。 駄目だ、寺侍がいて、見つかると、樫(かし)の六尺棒で叩かれる。  大丈夫、うまくやるから。 駄目だ。 町内の二軒、床屋とお湯屋でしゃべる よ。 しょうがない奴だな、今晩一晩だけ連れてってやる、夜晩く来い。

 七兵衛さん、出かけましょう! 殺生禁断の池、寛永寺の池へ、鯉を釣りに!  でけえ声を出しやがって、前の糊屋の婆さんが、何て言われているか知ってい るのか、おしゃべり婆さんだ、たちまち世間中に広まる。 

 竿と魚籠を持て。 寺侍、山同心が回って来て、見つかると、端(はな)六 尺棒で頭を一つ叩かれる。 ここが殺生禁断の池と知って釣ったか、知らずに 釣ったか、聞かれる。 思いもよらないことを言うんだ。 カルロス・ゴーン のおかげで、今がある、とか。 また、二つ三つ叩かれる。 涙が出た所で、 言うんだ。 私には、一人(いちにん)の父でもいいし、母でもいいがいて、 患って寝ており、余命いくばくもありません、今わの際に鯉が食べたいと申し ます、喜ぶ顔をみたら名乗って出る所存だとな。 孝行の二字は重い、孝心に 免じて許してやるということになる。

 池に着いた。 俺は柳の木の下にいるから、お前は向こうで釣れ。 見回り の寺侍に見つかったら、アーーッとか、キャーーッとか、叫び声を上げろ。

 二手に分かれて釣り、与太郎は沢山釣れるので、ワーワーキャーキャー言っ て釣って、小躍りしている。 ご同役、一回りしてから……、どこかで叫び声 が。 よく釣れている。 おい、こら、かような所で釣る奴があるか。 お出 でなすった。 何だ、ここが殺生禁断の池と知って釣ったか、知らずに釣った か。 存じてますよ。 ポカポカ! 痛い、痛い、七つまで勘定したが、わか らなくなった。 私には、一人(いちにん)の父でもいいし、母でもいいがい て、患って寝ており、余命いくばくもありません、今わの際に鯉が食べたいと 申します、喜ぶ顔をみたら名乗って出る所存、早く勘弁しろ、おじさん。 こ やつ孝心の者ではないか、見逃してやるか。 名は何と申す? 与太郎さん。  自分で、さんをつける奴があるか、何匹釣った。 三十六匹、魚籠に入らない ので、風呂敷貸してくれ。 馬鹿者、早々に立ち去れ。 忘れ物のないように。  そうだ、忘れ物をしました。 アーーッ! キャーーッ! 何だ? サヨナラ。

 柳の下にもう一人、釣りをしているのがいるぞ、挟み撃ちだ。 ボッカーー ン! 叩かれた七兵衛、舌がもつれて、口が利けなくなった、アウ、アウ。 唖 (おし)か。 ウェイ、ウェイ。 耳も聞こえんのか。 身共の申すことが分 かるか? ヘェイ、ヘェイ。 (手振り身振りで、言い訳をする。) 何、父親 が長く患っておるのか。 ウイーッ、ウイーッ。 今夜は、親孝行の流行る晩 だ。 馬鹿に、唖か。 名は何と申す。 (指を五つ折って、二つ折り返し、 アカンベエとベッカンコ) 七兵衛か。 見逃してやるぞ。 有難うございま す。 器用な奴だ、今度は口まで利いた。