立川生志の「お見立て」後半2019/01/31 07:10

 花魁、大変だ、見舞うって言うから、駄目だと言ったら、アルジにかけあう って、帰らない。 そんなことになったら、花魁は折檻部屋に入れられて、大 変なことになる。 練炭焚いて、目張りした部屋に入るんじゃないんだろ。 私 は杢兵衛大尽が嫌いなんだよ、小さい時に嫌いだったゲジゲジ虫よりも嫌い、 初登場第一位だよ。 見舞いができなくなるように、死んじゃったって、言っ ておくれ。 そうだ、あいつ三月来なかった、お大尽、あなたが殺したような ものだとお言い、あなたが来ないんで、食べるものも喉を通らなくなって、焦 がれ死にした、と。 よく、そんなことを、笑いながら言えますね。 泣いた ように、お茶で目を濡らして。

 お茶を淹れて参りました。 実は、病気というのは嘘でして、喜瀬川花魁はおかくれになったんでございます。 どこに隠れた? 押入れか? 死んだん ですよ。 おっ死(ち)んだ。 あなたが殺したようなもので、三月も来なかったでしょ、焦がれ死にをした。 飛んで行きたくても、籠の鳥で、来られな かった。 それに、手紙の一本も寄越さなかったでねえか、なぜ手紙が来ない。  ワレがなぜ役に立たないんだ。 宛名はワレの字で出せばいいではないか。 お 大尽の所番地がわからない。 所番地は喜瀬川に渡してた。 書き付けを受け 取ったけれど、間にゲジゲジ虫がいたんで、火鉢に放り込んだって、言ってま した。 そうか、あいつはゲジゲジ虫が二番目に嫌いだって、言っていた。 一 番は、わからない。 喜助、涙が出てるぞ、泣いてくれるのか。 あまり泣く な、でも目の横に、お茶ッ葉がついとるぞ。 母親が、九州の八女の出身でし て…。 ブフォーーッ!(と、お大尽泣く)。 泣いていらっしゃるんで…。 若 くて、きれいな妓を見繕って、何人か並べておきますから、良いのをお見立て を。 オラ、帰エる。 青汁か何かで。 お帰りになる。 喜瀬川の寺は、ど こだ、山谷か? はい、山谷で。 寺はどこか、墓参りをぶつ。 当人に聞い て参ります。 当人? ご内証で。

 聞こえたよ、ブフォーーッ! 帰ったろ。 寺はどこか、と。 山谷と言っ たら、墓参りをぶつ、と。 馬鹿だねえ、山谷って言ったのかい、カムチャッ カとか言えばいいのに。 生き返ったと、お勤め下さい。 墓参りをさせてや ろうじゃないか。 知恵を使いなよ、字が見えないように、花を沢山と、線香 をムクムクと焚いて。

 喜瀬川の寺は、どこだ。 どこでもよろしいんでございます。 ここです。  禅寺か。 花魁、お休みには座禅など組んでおりまして。  お婆さん、花を沢山と、ムクムクと煙が出る線香を下さい。 ハハハハハ、 線香はみな煙が出るよ。 松明(たいまつ)みたいになっちゃった。 どれに しようかな、天神様の言う通り。

 花魁は、お花が好きだったので、沢山飾りましょう。 どうぞ、お参りを。  喜瀬川、すまなかったな、ブフォーーッ! ブフォ、ブフォ、喜助、煽ぐな。  「天保三年アンモウ信士」、信士というのは、男の名ではないか。 すみません、 こちらでした。 ブフォーーッ! 煽ぐな、花で墓石が見えねえではないか。  「ジゼン童女 享年三歳」、子供でねえか。 すみません、こちらで。 「故陸 軍歩兵上等兵」だぞ。 ずらりと並んでおりますので、よろしいのをお見立て を。

小人閑居日記 2019年1月 INDEX2019/01/31 08:23

8052 俳句「秋の空余生まもなく十八年」<小人閑居日記 2019.1.1.>
8053 柳家小せんの「金明竹」前半<小人閑居日記 2019.1.2.>
8054 柳家小せんの「金明竹」後半<小人閑居日記 2019.1.3.>
8055 柳家権太楼の「文七元結」上<小人閑居日記 2019.1.4.>
8056 柳家権太楼の「文七元結」中<小人閑居日記 2019.1.5.>
8057 柳家権太楼の「文七元結」下<小人閑居日記 2019.1.6.>
8058 再び山本周五郎にはまる<小人閑居日記 2019.1.7.>
8059 「墨丸」の岡崎とその時代<小人閑居日記 2019.1.8.>
8060 平之丞がお石を恋し、嫁にと望むが、去られる<小人閑居日記 2019.1.9.>
8061 藩の秘事と「八橋の古蹟」で<小人閑居日記 2019.1.10.>
8062 お石は、なぜ平之丞のもとを去ったのか<小人閑居日記 2019.1.11.>
8063 「寒稽古」と「侘助」の句会<小人閑居日記 2019.1.12.>
8064 インターネットのオープン性と、関わった人物<小人閑居日記 2019.1.13.>
8065 勝手に設計仕様を公開し、誰もそれに気づかなかった<小人閑居日記 2019.1.14.>
8066 インターネット40年の歴史<小人閑居日記 2019.1.15.>
8067 長谷山彰塾長二度目の年頭挨拶<小人閑居日記 2019.1.16.>
8068 「マージナルな人間としての福澤諭吉」<小人閑居日記 2019.1.17.>
8069 経済史・経営史から見た福沢のマージナル性<小人閑居日記 2019.1.18.>
8070 大津波と浜口梧陵、和歌山と福沢・慶應義塾<小人閑居日記 2019.1.19.>
8071 「光(ひかり)」の歌会始、前半<小人閑居日記 2019.1.20.>
8072 「光(ひかり)」の歌会始、後半<小人閑居日記 2019.1.21.>
8073 作家・山本周五郎の生い立ち<小人閑居日記 2019.1.22.>
8074 山本周五郎の「馬込村」、隣の中延で育つ<小人閑居日記 2019.1.23.>
8075 山本周五郎夫人、2歳の子を遺しての死<小人閑居日記 2019.1.24.>
8076 山本周五郎の手紙から<小人閑居日記 2019.1.25.>
短信 8077 天覧相撲の時を共に<等々力短信 第1115号 2019.1.25.>
8078 柳家緑太の「星野屋」<小人閑居日記 2019.1.26.>
8079 古今亭志ん五の「まぬけの釣」<小人閑居日記 2019.1.27.>
8080 橘家圓太郎の「火焔太鼓」前半<小人閑居日記 2019.1.28.>
8081 橘家圓太郎の「火焔太鼓」後半<小人閑居日記 2019.1.29.>
8082 立川生志の「お見立て」前半<小人閑居日記 2019.1.30.>
8083 立川生志の「お見立て」後半<小人閑居日記 2019.1.31.>