桂やまとの「阿武松」2019/04/05 07:24

 3月4月は忙しい、PTA会長になって3年目、卒業式で小学生に祝辞を述べ る。 夢は必ずかなえられるんだ、ということを伝える。 強く思っていない と、かなわない。 私も、映画に出たい、映画に出たい、あわよくばセリフが 言いたい、という夢を持っていた。 今年の1月、とある映画プロデューサー に、いま映画撮っているんだけど出る、って言われた。 ちょうどよかった、 テーマがPTAだという。 でも、エキストラだった。 2月初旬、大泉学園駅 から20分ほどの東映のスタジオで、パーティー・シーン。 エキストラが20 人ほど、4、5人にはセリフがある。 一人一人、役(動き)を付けてもらう。  3分のシーンの撮影に、4時間かかる。 無駄でしょ。 エキストラも、シー ンの都度、動く。 エキストラだけど、ここだけセリフを言ってもらいたい、 と監督に言われ、夢がかなった。 『子どもたちをよろしく』という映画で、 セリフ言ってます、聞きたい方は拍手して下さい。 小雨のような拍手で…、  「デリバリーヘルス!」これです。 俺は喬太郎かって、よぎった。

 三月本場所、貴景勝関が大関をつかんだ。 江戸の頃、相撲は大変な人気で、 寺社を直すのに興行をした。 年に二度、十日間ずつが本場所。 今は引退す ると年寄の株を手に入れて親方になるが、昔は力士が部屋をもって、後進の指 導をしていた。 親方は、金も、酒も、女も土俵の下に埋まっている、と教え た。

 京橋の親方、武隈文左衛門の所に、能登から名主の添書を持って入門に来た。  ここへきて、身体を見せろ、裸になれ。 弟子にして、尾車という名をもらっ た。 だが、台所のコメの減りが甚だしい。 尾車は大飯食らいで、大釜に炊 いたおこげを7、8個握りにして、むしゃむしゃ食うのが前菜で、あんまり食 うから、暇を出したほうがいいよ、とおかみさん。 ハイ、と親方。 落語界 と同じ。 無芸大食、暇を出す、ここに一分という金がある、名主様への手紙 だ。 これはお世話になりました。

 板橋から、戸田川の渡しにかかる。 情けねえ、国には帰れねえ、身投げを しよう。 一分ある、今晩泊まって、腹いっぱい食ってから、明日死のう。 旅 籠の立花屋善兵衛に入り、一分の金がある、これで腹はいっぱい、飯を食わせ てくれ、と言う。 お膳の前に、どっかり座って、お鉢を三度代えた。 まだ、 継続中。 おかずは、二品か三品。 主がやって来る、板橋は農業が盛んで、 大層美味しいでしょうね。 いっぱい食えば、食うだけ命が縮まる。 何か訳 がありそうだ、話をしてくれないか。 だば、お話します、京橋の武隈親方の ところで、飯を食い過ぎると帰された。 そうかい、それは可哀そうだ。 若 いんだから飯も食うだろう、体も相撲に向いてる気がする。 錣(しころ)山 親方に頼んでやるから。 仕送りをしてやる、日に三升、十日で三斗、月々五 斗俵二俵ずつ。 根津七軒町の錣山喜平次親方のところだ。 有難うごぜいや す。 これからが美味い、もう一杯。

 カラスカア。 顔洗って、もう食べてる。 いい天気だ、巣鴨庚申塚から根 津七軒町へ。 親方、板橋の旦那がいらっしゃいました。 親方に頼みがある、 弟子を一人採ってもらいたい。 旦那は、十日の相撲を十二日観る相撲好きだ、 前の日の小屋組みから、翌日の取り壊しまでご覧になる。

 能登の長吉、五代目横綱小野川喜三郎に次いで、後に六代目横綱となる阿武 松緑之助が、敷居の所に座っている。 一目でわかる、いいね、いいよ、ああ、 好きだ。 兄さん、年は? 二十五。 酒は飲むか? 飲まない、銭があった ら、マンマ食う。 女は? 一生、貞操守りたい、銭があったら、マンマ食う。  実は武隈関のところで、飯を食い過ぎると帰されたんで、私が月々五斗俵二俵 ずつ仕送りする。 錣山は辞退して、うちじゃあ、いくらでも食え。 四股名 は小緑はどうだ、親方の出世名だ。

 文化12年12月序の口に張り出され、文化13年2月六十何枚上がって、序 二段、文政5年入幕を果たし小緑改め小柳、武隈文左衛門との割が組まれた。  「おのれ、おまんまのかたき」「まんまならない世の中、こめったこめった」 毛 利の殿様のお抱え力士となり、長州萩の松原から阿武松緑之助を名乗って、第 六代横綱となる出世噺でございます。