「小泉信三御進講覚書」2019/04/18 07:11

 NHKラジオ 第2放送「カルチャーラジオ~NHKラジオアーカイブス」の 「声でつづる昭和人物史」で、4月1日から始まった毎週月曜日の小泉信三さ んの放送を聴いている。 この放送は、パソコンやスマホのストリーミング・ サービスでも聴くことが出来る。 解説は保阪正康さん、司会は宇田川清江さ ん。 4月1日と、8日は、昭和33(1958)年12月23日放送の「朝の訪問」 (聞き手・八木治郎アナ)だった。 天皇陛下が皇太子で25歳になった誕生 日の訪問で、小泉信三さんは70歳だった。 小泉信三さんが奔走して、正田 美智子さんとの婚約が調い、翌年4月10日のご成婚を控えて、ほっとしてい る時期だった。

 8日の第二回で保阪正康さんは、天皇の立ち位置や役割が、明治からのそれ ぞれの時代で違うことを述べた。 14歳で即位した明治天皇は、山県有朋、大 久保利通らと国づくりをし、一等国を目指し、軍事中心の体制をつくるために、 天皇は権力と権威を代表するものとしての性格を規定された。 大正天皇は、 文人肌で最高レベルの漢詩を詠んだが、軍事とは距離を置いた、身体が弱く、 摂政をおく。 昭和天皇、戦前は軍事主導で明治天皇に倣う、戦後は人間天皇 として、象徴天皇の役割を考えたが、十分検証されていない。 平成の天皇は、 初めから新憲法の下にあり、象徴天皇像をご自身でおつくりになったが、皇太 子時代にそれを強力にサポートしたのが小泉信三さんで、戦後の日本が天皇制 を解体しなかったことや伝統をよく考えて、天皇として自覚してもらいたい、 と教えた。 後で触れる「小泉信三御進講覚書」(昭和25(1950)年4月24 日)の重要性を、保阪正康さんが指摘したのが、特筆される。

 「朝の訪問」で、小泉信三さんは、こんな話をしていた。 「帝王学」とい う名前でいわれるとおかしい、「お心得」という名前で雑談、百般のこと、学問、 思想哲学、些末なことまで、楽な椅子に座り、窓際の明るい所で、お話した。  皇太子殿下は、虚偽、偽善がお嫌いで、誠実、それはお家の伝統だろう、側の 者もいい加減なことは言えない。

 小泉信三さんは、昭和24(1949)年に61歳で東宮御教育常時参与となる。 週二回東宮御所に通ったが、保阪正康さんは、小泉信三さんが「御進講覚書」 を残していて、公開されていると話した。 20世紀が明けた時はフランスとス イスだけだったが、第一次と第二次の世界大戦が終わった後に、諸外国で君主 制が解体する中、日本は天皇制を解体しなかった。

 (保阪正康さんが『文藝春秋』2008(平成20)年8月号で公表したという 「小泉信三御進講覚書」が手に入らないので、複数の資料から、その内容を推 測してみたい。)

 「責任論からいへば、陛下(昭和天皇)は大元帥であられますから、開戦に 対して陛下に御責任がないとは申されぬ。それは陛下御自身が何人よりも強く お感じになってゐると思ひます。それにも拘らず、民心が皇室をはなれず、況 (いわん)や之に背くといふ如きことの思ひも及ばざるは何故であるか。一に は長い歴史でありますが、その大半は、陛下の御君徳によるものであります。」

「殿下に於て、よくよくこの君徳といふことについてお考へになり、皇太子 として、将来の君主としての責任を御反省になることは、殿下の些かも怠る可 からざる義務であることを、よくお考へにならねばなりませぬ。」

 「君主の人格、その識見は、自ら国の政治によくも悪しくも影響するもので あり、殿下の御勉強と修養とは、日本の明日の国運を左右するものと御承知あ りたし。」

 「注意すべき行儀作法/気品とディグニチィ(威厳)は間然すべきなし(批 判の余地がない)/To pay attention to others(他の人々には注意を払うこと) /人の顏を見て話をきくこと、人の顏を見て物を言うこと/Good manner(良 き礼儀)の模範たれ。」

 保阪正康さんは放送の解説で、「御進講覚書」は、以下のようなことを進講す るという小泉さんの心構えと覚悟を記したものだとした。 天皇は時代の倫理 と道徳の中心であり、道徳的文化的な存在として最高レベルの形を持つ「君徳」 を身につけなければ、国民が天皇への信頼を持ち続けられない。 「君徳」を ご自分の勉強と修養で高めていき、何らの発言をなさらずとも、そのお姿で、 政治的社会的な影響を与えることが、国のため、国民のためになり、日本の明 日の国運を左右するもので、国の内外で安堵感と安定感を与えることになる、と。

コメント

_ 轟亭(再び「小泉信三御進講覚書」) ― 2019/05/17 07:30

再び「小泉信三御進講覚書」<小人閑居日記 2019.5.17.>を書きました。

コメントをどうぞ

※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。

※なお、送られたコメントはブログの管理者が確認するまで公開されません。

※投稿には管理者が設定した質問に答える必要があります。

名前:
メールアドレス:
URL:
次の質問に答えてください:
「等々力」を漢字一字で書いて下さい?

コメント:

トラックバック