「天皇のものさし。守田蔵 正倉院 撥鏤」展2019/05/06 08:08

 10連休でなくても、ずっと連休なのだけれど、10連休の1日、銀座へ出た。  句友から案内を頂いたので、トラヤ帽子店の上の藤屋画廊で、「天皇のものさし。  正倉院 撥鏤(ばちる)」展を見た。 守田蔵さんという方の作品である。 守 田蔵さんは、白洲正子さんが「貴重な陶工」と評した陶芸家だったが、大病の 後、正倉院御物の一つ撥鏤の復元に取り組んでいる。 まったく知らなかった が、撥鏤というのは、中国盛唐期に象牙に対する加飾技法の一つとして頂点を 極めたもので、象牙を削って成形・研磨した表面を、赤、緑、藍などの染料で 染め、撥ね彫りで模様を彫り、その部分に、緑、赤、黄などの彩色を点じる技 法である。 東大寺・正倉院には、聖武天皇の遺愛品として撥鏤尺、棊子(き し…碁石?)・琵琶の撥などがある。

 会場には、正倉院御物を復元した撥鏤、守田蔵さん創作模様の撥鏤を中心に、 帯留、ピンバッチ、茶杓、菓子切りなどの作品が並んでいる。 どれにも精密 精巧な模様が彫られていて、根気のいる作業だろうということは、容易に想像 できた。 「天皇しか持つことの許されない、国家の基準をはかる「ものさし」 である撥鏤尺。姿形だけでなく、その精神性も守田さんの撥鏤尺は写している のだった」と、その作品を称える三笠宮彬子さまの本や、ドナルド・キーンさ んの葉書(もちろん日本語だった)なども展示してあった。

わからないながら、守田蔵さんとお話をさせて頂き、「北倉 紅牙撥鏤尺」の ように紅=朱色のものが多いので、お聞きすると、魔除けの意味があるからだ ろうということだった。 そういえば、神社や鳥居が朱色だ。 正倉院の写真 があって、北倉というのは、その北側、右側部分だそうだ。

 昨年秋「日曜美術館」で正倉院展を見ていたら、10月3日に天皇の勅許を得 た勅使が正倉院の倉の封印を解く「開封の儀」というのをやっていた。 モー ニング姿の勅使や東大寺の僧が行列を作ってやって来る。 その倉だが、教科 書で見ていた昔からの木造の建物でなく、同じ形ながらコンクリート造の建物 だったのを、疑問に思っていた。 守田蔵さんにお聞きすると、正倉院の写真 の左奥に見える建物が、そのコンクリート造で、火災への対策や空調などの関 係で、御物は現在、そちらに保管されているということだった。

 奈良市に近い京都府木津川市の「獅子窟」がお住まい(工房)だとあるが、 ネットで「撥鏤 守田蔵さん」をみたら、浄瑠璃寺門前に120年の古民家で「吉 祥庵」というお蕎麦屋さんをやっておられるらしい。