柳家小満んの「樟脳玉」前半2019/06/04 07:15

 こん日、長太郎玉というのはありませんが、樟脳の粉をまるめたもので、火 を点けて手の上を転がして遊んだ。 樟脳を粉末で売っていて、桜紙に包んで 雛人形や箪笥の中に入れたりした。 浮き人形、知盛が舟に乗ったのや、舟の 艫に樟脳を付けて走らせて遊ぶのもあった。 お芝居では、焼酎火といって、 アルコールの染みた布を使うが、その以前は樟脳火、樟脳玉を使った。

 兄貴、糊屋の婆さんに話を聞いて、銭儲けになりそうなんで、やって来た。  銭儲けには、五年、十年、腕磨くとか、一山当てるとか、丁稚から手代、番頭  と辛抱してやっと土台が出来るという必要がある。 鼻が利く、目が利く人な ら、大金を張り込んで、大きくする手もある。 金持に引き取られるというの もあるが、人間の信用が必要だ。 もう一つある、天下の御法に触れて危ない 橋を渡る。 それしかないか、渡ってみるか。

 後ろの障子を閉めろ。 天下の御法だ、引き窓を閉めろ、トンビや烏が聞い ているかもしれない。 まだ仏壇がね。 扉が壊れているから、風呂敷をかけ ろ。 猫がいる。 猫は絞りの浴衣を着て踊る。 シッ、シッ! 行っちゃっ たよ。 縁の下に入った。 まずいな、立ち聞きをしているかもしれない。

 源兵衛のかみさんが死んだのを、知ってるか。 源兵衛は、かみさん孝行で、 なんでもやるんだ。 朝、俺が源兵衛んとこへ行くと、朝飯の支度をしている 源兵衛が、お長屋の八っつあんが来てるよ、お前そろそろ起きたらどうだって、 言うんだ。 かみさんは立つ姿がいい、コロコロとうがいをすると、そのうが いの水を、あいつ、飲んでやんだよ。 それだけの惚れようなので、かみさん が死んだから大変なんだ。 朝晩、お題目を大声で唱えている。 隣近所が、 たまらない。

 源兵衛は、両親に早く死なれ、伯父伯母に引き取られた。 十三で山崎屋に 奉公したが、そこの十一のお嬢さん、お縫さんに気に入られる。 お縫さんは、 源兵衛を側に置いて、出かける時はお供をさせる。 お縫さんが十六.七、源兵 衛が十八.九になると、親が心配して、間違いがあっちゃあいけないからって、 源兵衛に暇を出すことにした。 伯父さんを呼んで、ついては些少だがと、店 の一軒も出せる金を出した。

 お縫さんが、源兵衛を呼ぶと、代りの者が来て、源兵衛はお暇が出ましたと いう。 それからお縫さん、返事もしない、飯も食わない。 朝三膳、昼二膳、 夜三膳、おやつに芋を食べていたのを、朝一膳、昼半膳、おやつも手を付けな い。 心配したのは婆やさん、心の内を知っているから、お嬢さんを伯父さん のところへ連れて行って、観音様に願をかけた。

 お縫さんの兄がいて、話が分かる。 父親に二人を一緒にさせてくれないか と頼み込んで、我儘勘当という体裁にした。 だから源兵衛のかみさんは、モ ノが違うんだ。 源兵衛も、お嬢さんを守っていりゃあいい。 源兵衛の仕え っぷりが、板についてたわけだ。 それが、死んだんだから、朝晩、お題目を 大声で唱えていても、当り前だ。

 それで銭儲けの問題だ。 お前に白羽の矢を立てた。